トランプが中国への「為替操作国」認定見送り 日本にとって意味すること
人民元よりも「問題」な日本円
為替レートだけみると、中国人民元よりも日本円のほうが米国の通商政策上は問題であろう。ただ、日本も為替介入をしているわけではない。また、これまで円安が進んだが、日本からの対米輸出数量はあまり増加してこなかったので、米国からみると円安と米国貿易赤字との関係は薄い。貿易指数(2010年=100、財務省「貿易統計」)の数量指数では、対米輸出は2012年に108.5であったが、2015年に103.1、2016年には101.3とむしろ低下している。円換算の輸出額は伸びても、米国ではドル換算でみるから減少している。なお、米国からの輸入量についてはこの間、20%程度増加した。 トランプ米大統領がどのような政策を日本に対して行うのかを予想するのは難しいが、これまでの傾向から考えると、為替よりも実質的な生産を重視するのではないだろうか。すなわち米国での生産が増加し、雇用が増えることを目指しているようだ。具体的には日本企業の米国での現地生産増加や、米国の対日輸出増加のための規制緩和の要求などであろう。日米の二国間貿易に関する協議ではこれらの点が、北朝鮮の状況とも絡めながら、話し合われる可能性が高い。 日本としても二国間協議となった時に、円ドルレートの死守を目指す必要はない。現在、円安だから日本経済が豊かになりやすいという構造にはない。原油などの輸入だけではなく、企業にとってもそうなってきている。4月30日付の日本経済新聞で「円高でも最高益 前期上場企業、収益構造を変革」という記事があったが、そこでも「為替影響を小さくするために、日本の製造業は海外生産の拡大で地産地消化を進めてきた」と指摘している。このような状況では輸出すらも、稼ぐという意味では重要性が薄らいでいる。(ただし、円高は国内の中小企業(製造業)へのマイナスの影響は依然として残るだろう) トランプ米大統領の関心が自国の雇用や貿易である以上、日本にとって不利になるような要求をしてくるように見えるかもしれない。しかしながら、実際にそうだとは限らない。為替レートのような意味の小さくなったことにとらわれず、経済の現状を把握した適切な交渉をすることが必要だ。
------------------------ ■釣 雅雄(つりまさお) 1972年北海道小樽市生まれ。一橋大学経済研究所助手などを経て、現在、岡山大学大学院社会文化科学研究科教授、日本経済などの授業を担当。専門はマクロ経済学や経済政策。著書に『入門 日本経済論』(新世社)など。博士(経済学)