トランプが中国への「為替操作国」認定見送り 日本にとって意味すること
そもそも認定される状況になかった中国
米財務省は「米国為替報告書」(Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States)において、特に米国の通商政策に影響するような為替レートなどの動きを示す国を「監視対象通貨リスト」(Currencies Of Monitoring List)として指定している。今年4月の報告書でそのリストにあるのは、日本円、中国人民元、台湾ドル、韓国ウォン、スイスフラン、それに加えてドイツ(ユーロ)である。これらの国の政策と通貨の状況が報告書としてまとめられている。 監視対象の基準は3つあり、(1)200億ドルを超える巨額な米国との貿易収支黒字、(2)対GDP比3%超の大幅な経常収支赤字、(3)対GDP比2%規模の継続的でかつ通貨安への一方的な為替介入、である。 同報告書の表2(Table 2)に、各国のこれらの基準値の状況がまとめられており、今回、3つすべての基準を超える通貨はないが、2つの基準に達しているのが、日本、ドイツ、韓国、スイスである。特に重要だと思われる通貨安介入の基準については、このうちスイスのみが当てはまる。 中国は(1)の基準が超えているだけだが、監視対象通貨リストに含まれている。対米貿易黒字額が3470億ドルと規模が大きいためである。次に大きい日本の689億ドルと比較するとその大きさが分かる。ただ、現在の基準ではこの1項目のみなので、中国は為替操作国に認定される状況にはない。
むしろ人民元高政策を採ってきた?
さらに、人民元安により中国の対米貿易黒字が拡大しているという関係もない。人民元の最近の動向は、円と比較すると分かりやすい。図1(IMFデータより作成)は上図が名目対ドルレート(月次、平均値)で、下図は実質実効為替レートである。 まず、上図で名目の対ドルレートをみると、2013年ごろから円がドル高・円安方向に動いてきたのに対して、人民元は人民元高傾向が続いてきた。 2013年に入り円安となったのはアベノミクスの影響もあるが、EU債務危機が沈静化したことや米国の金利が上昇したことが大きな要因だ。米国の10年国債金利は2013年当初2%前後であったが、2014年当初には4%前後となるまでに上昇した。この金利上昇は、米国で量的緩和の終了が予想され、そして実際に終了したことによる。ただし、その後は2016年半ばころまで、米国金利は低下傾向にあった。 米国の量的緩和策の終了は、日本にとっては金利差が拡大したという影響が大きかった。それに加えて、中国などの新興国では、資金の米国への流出も生じた。米国為替報告書 によると、中国からの資本流出は2014年に純減となり、2015年と2016年では6000億ドルを超える規模となった。 中国から米国へ資金流出すると、元売りドル買いが発生するから、本来なら人民元は円と同じか、あるいはそれ以上に人民元安となっているはずである。そうならなかったのは、中国政府による(公表はされてはいないが)ドル売りの為替介入があったためと考えられる。中国では投資が成長の源泉となっており、外国資本の役割も大きい。中国が人民元安対策の為替介入を行うのは、さらなる資本流出を避けるためである。