トランプが中国への「為替操作国」認定見送り 日本にとって意味すること
図2は中国の外貨準備高(Total Reserves minus Gold、IMFデータより作成)と為替レートの動向を合わせてみたものである。それまで増加していた中国の外貨準備は2014年から2016年初めごろまで、ドル売りの結果として減少したと考えられる。この時期、人民元はほぼ一定のレートなので、1ドル6元程度が目標とされたように見える。ただ、2015年以降は介入の程度が弱まり、それとともに人民元安へ緩やかに動いてきた。 元安へと転じているが、それでもまだ高い水準にある。図1の下図は実質実効レートである。実効とは対ドルだけではなく、様々な通貨について貿易額でウェイト付けを行って、指数化したものである。ここではこの実効レートより実質レートに注目する。
実質レートとは、米国との物価水準の違いを考慮した通貨価値である。たとえば、名目レートが変化しなくても、米国のインフレ率が相対的に高くなれば、同じ通貨でも購入できる財の量は減る。この時、その通貨の実質的なレートは下落したと考えるのである。円は実質的にも2013年以降低下したが、インフレ率は日米でそれほど違いはないので、相当な名目為替レートの下落であったことが分かる。一方で、人民元は実質でも上昇を続け、2015年にはその変化がより強くなっていて、円と対照的な動きである。このことからも、中国がむしろ人民元安に対する対策を行っていたことが分かる。 トランプ氏が大統領選挙を行っている時期まで、中国はむしろ人民元高政策を採用してきていたのである。為替操作国の認定は、通常は通商政策としての通貨安のための介入を対象とするので、中国はまったく当てはまらない状況だった。トランプ米大統領が、そのことを最近になってはじめて認識した可能性もあるが、それでも、為替を外交カードの一つとして、戦略的に利用していることには変わりがない。 もし、為替操作国に認定されれば、中国から米国への輸入財に高い関税(45%など)が課されるなどの措置が取られる。そうなると、上記の実質為替レートがその分だけ上昇するのと同じ効果が生じる。そう書くと中国の政策と同一方向のようだが、しかしながら関税は資本に対してかからないので、資本流出の歯止めにはならない。そのため、中国としてはトランプ大統領の政策方針を無視することはできないのである。