23人の医師が退職…“学閥”というしがらみを乗り越えた市民病院のいま
今回のテーマは、「続・病院を再生せよ!~市民病院の存続へ」。滋賀県にある市立大津市民病院が再生に向けて動き出す様子を取材してから1年…病院では、院長肝いりの改革が進められ、市民のための医療を取り戻すために奮闘する人々の姿があった。病院内部の取材から見えてきた地域医療の課題とは? 復活にかける市立大津市民病院のその後を追った。 【動画】23人の医師が退職…“学閥”というしがらみを乗り越えた市民病院のいま
医師大量退職問題で患者激減…再生に挑む院長のその後
滋賀・大津市。2年前、地域の基幹病院である市立大津市民病院で、23人に及ぶ医師が大量退職する問題が発生した。市民病院などは、各大学から派遣された医師によって成り立っている。これを医局制度と言うが、大津市民病院の場合、主に京都大学と京都府立医科大学から医師が派遣されていた。問題の端緒となったのは、京都大学系の外科医たちが、京都府立医科大学出身の理事長から「一方的に人員の削減や交代を迫られた」と告発したことだった。これによって市民病院は地域からの信頼を失い、患者は激減した。
こうした中、再生を託され、院長に就任したのが日野明彦さん(当時67歳 京都府立医科大学卒)。しかしその道のりは、まさに試練の連続だった。 大津市民病院は、125年前に開院。内科や外科など30の診療科に約400のベッドを有し、市民の10人に1人が通院する大津市民のための病院だ。 市民からの信頼が地に落ちる中、日野さんは「当時すごくしんどかったが、いくつかいい出来事があった。その一つは放射線科が残ってくれたこと。それがなかったら、存続できていないかも」と話す。
日野さんが全幅の信頼を寄せる放射線科・診療部長の市場文功さん(奈良県立医科大学卒)は、画像診断の能力を競うコンテストで、去年全国1位に輝いたスーパードクター。実は市場さんは、一連の問題が起きた際に退職を打診されたが、「京大の教授に『医局員を引き揚げるので、あなたもどうぞ』と言われてショックだった。放射線科が破綻すると、この病院に対する影響はとても大きい。心が痛む」との思いから、留まることに。 残留を決めたもう一つの理由が日野さんの存在で、市場さんは「言葉に真実味があるし、嘘がない。本気で立て直していこうという気持ちが垣間見えた。野球でいうと、新しい監督がやってきて、この人を優勝させてあげたいという気持ち」と、胸中を明かす。