日本経済復活に「余計なことはするな」…“為替介入の司令塔”神田前財務官に直撃!【独自インタビュー】
■“成長産業”半導体…政府の“巨額支援”への評価は?「不毛な補助金競争はダメ」
◇神田氏の懇談会の報告書では、政府が勝手に成長産業を決めるべきではないというふうに指摘されていた。政府主導の半導体支援が行われているが、これについての評価は? ーーー「一般論」ですけれども、成長分野っていうのは、もとより、期待成長率が高い分野ですよね。だから普通であれば、この企業間競争の中で生まれていく、まさに個々の企業によるリスクを伴う投資によって、健全に発展していくっていうのが通常の姿です。 なので、不完全な情報しか持っていない我々が、成長分野を特定して「これが成長するんだ!」とか言って、補助金などを通じて、投資を誘導するっていうのは、モラルハザード、レントシーキング、特に政府の補助がなければ生きていけないような企業を、かえって助けてしまうような、我々「逆選択」って言うんですけれども、アドバース・セレクションが起こってしまうリスクもあるので、そこは慎重でなきゃいかん。 ただ他方、絶対にダメだということでもないと思うんですね。今おっしゃった、半導体っていった戦略的分野では、他の国も多額の補助を行っている現状もありますし、それから、我が国の産業競争力の強化、あるいは経済安全保障上の観点、そういったところから、一定の支援が正当化される場合もあると思います。 ただその場合、不毛な補助金競争になってはいけません。一時期あった、法人税の引き下げ競争、レース・トゥー・ザ・ボトムみたいになってはいけませんので、国家間の公平な競争条件確保に向けた、国際的な取り組みを強化していくということも併せて、重要だと思っております。これはまさに、今のG7でも議論しようとしているテーマの一つでございます。
■在任中の3年間で「のべ60か国」訪問…海外から見た“日本の現在地”と“日本の貢献”は?
◇“為替介入を指揮する方”というイメージもあったが、海外にたくさん訪問されてもいた。今、日本は海外からどのように見られていると感じたか。また、日本の立場をどのように説明されてきたか。 ーーーおそらく、財務官の在任中、のべ60か国を訪問していまして、海外に、国際的な制度改革といったもので、日本の立場を説明する場合というのは無数にあったと思います。 やはり、さっきの話とも重なりますけど、とりわけ昨年はG7議長国でしたので、我々が考えている世界のあり方、改革の方向などを、特に新潟での財務大臣会合、あるいは鎌倉での財務官会合などを含めて、いろいろな説明と調整をしてきたと思います。 さっき申し上げた、ウクライナ支援、対露制裁、債務問題、国際保健、国際金融機関会合、こういった問題を主導しただけじゃなくて、非常にユニークな取り組みとしては、GDPだけじゃなくて、多様な価値を踏まえた人々のウェルフェアを追求するような、経済政策の重要性を議論したらどうかとか、あるいはサプライチェーンで、クリーンエネルギー関連製品で、もう少し、低中所得国が大きな役割を果たせるようなパートナーシップ「RISE」を立ち上げ(るなど)。 こういったことは、理解を得るように回っていったようなところがありますが、ASEANプラス3の方でも同じように、韓国・仁川での大臣会合、それから、金沢での財務官会合だけでなく、いろんな会議の中で、自然災害やパンデミックといった外性ショックに起因する、対外収支ニーズに対して、迅速に発動できる「ラピッド・ファイナンシング・ファシリティ」、金融融資ファシリティの創設とか、あるいは、新たな取り組みとして、5月でしたか、初めて日本と、太平洋島しょ国の財務大臣会議を開催して、対面の議論を通じて、アジア太平洋における議論も指導したりしていました。 そういったことをやっている中で、やはり、結構有効だったのは「バイ」(=2国間会議)ですね。 もちろん、今申し上げたのは、多国間の会議で、他にもIMFとか世銀とか、いろいろありますけども、個別の国にもかなり回りまして、G20議長国のブラジルとかだけじゃなくて、ロシアと対峙しているウクライナ、モルドバ、リトアニア、それからアジア、アフリカ、さっきの太平洋で言えば、フィジー、トンガなど、様々な国で首脳とか、閣僚級を含む要人と対応しました。 こうしているとですね、2国間関係の深化だけじゃなくて、グローバルな課題の解決に、一緒にやっていこうという共通理解、例えば太平洋の諸国だったら、気候変動で日本と同じように、自然災害、天候が非常に悪くなってる、あるいは地震も同じような課題を抱えているというので、この共通理解の中で、連携していくような話がどんどんできていく。 そのような努力の中で、またときには成果が得られる中で、海外からの日本に対しての期待とか、あるいは評価っていうのは、高まっていくものだし、私自身、その実感はあります。 ◇それは神田氏が1官僚を飛び越えるくらいに、海外をたくさん回ったから実感できたのか? ーーーというか時代がやっぱり変わってしまって、安定した制度があって、その中で調整をしてるんだったら、日本みたいな小国は、あまり活躍の場がないのかもしれませんけども、今本当に、世界が大混乱、場合によっては、“第3次世界大戦”とか“世界金融危機”みたいなリスクに直面しているときに、やはり汗をかいて、世界のために日本が貢献していくということが、期待されているし、幸か不幸か、G7とASEANプラス3の議長国であったということは、そういったことをやりやすい環境にあった。 それから、何よりも私は非常に仲間に恵まれていまして、財務省の仲間だけじゃなくて、関係機関、あるいは友好国のパートナーたちも、皆さんに支えられながらやってきたと思っています。