観光プロモーションも「ステマ規制」の対象、注意すべきポイントを弁護士が解説【コラム】
広告であることを消費者に隠して商品やサービスの宣伝をするステルスマーケティング(以下、ステマ)への規制が始まっています。消費者庁は2023年3月28日、ステマを不当景品類及び不当表示防止法(以下、景品表示法)上の不当表示として規制するための告示を公表し、10月1日に施行しました。観光に携わる自治体、DMO、事業者の皆さんにとっても他人事ではありません。旅行者誘致に向けた観光プロモーション実施で、同規制はどのように適用され、また何に留意すべきなのでしょうか。
規制対象となるための2つの要件
いわゆる「ステマ規制」の対象となる表示は、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であること(要件1)、及び一般消費者が事業者の行う表示であることを判別することが困難と認められるものであること(要件2)という2つの要件を充たすものになります。 観光関連の商品や役務(サービス)のプロモーションは、SNSやレビューサイト上での消費者の肯定的なレビューが有効です。もっとも、このようなレビューが実際には広告・宣伝であるにも関わらず、広告・宣伝であることを隠される形で行われた場合、消費者は、これを事業者の意向が反映されていない独自のレビューであると考え、広告・宣伝にありがちな誇張が含まれていないと誤解してしまいます。ステマ規制は、消費者が広告・宣伝であると認識できない形で行われるステマを規制することで、消費者が商品・サービスを自主的かつ合理的に選べる環境を確保することを目的としています。
インフルエンサー活用のケース
観光産業ではインフルエンサーを活用したプロモーションも少なくありません。この場合、どう対応すればよいでしょうか。前述したステマ規制の要件1及び2を踏まえて、具体的な事例を考えてみましょう。 ------- ホテルAが、インフルエンサーXに対して、ホテルAの宿泊費を無償とし、ホテルAまでの往復交通費をホテルAが負担する代わりに、XがホテルAへの宿泊の感想をSNSに投稿することを依頼しました。 ホテルAは、Xに対して具体的な投稿内容を指示していません。Xはこれに応じて、自らのSNSにホテルAを利用した感想を投稿しました。 ------- つまり、ホテルがインフルエンサーに対して交通費と宿泊を提供するかわりに、具体的な投稿内容には関与しないもののSNSへの投稿を依頼したというケースです。 このような形で事業者がインフルエンサーにSNS投稿を依頼する場合は、具体的な状況に応じて投稿が事業者の表示となる場合と、ならない場合の双方が考えられます。 前述の要件1が充たされるか否かは、ホテルAがXに提供した対価の内容(ホテルAが提供したサービスが高額なものであるか否かといった事情や、ホテルAが宿泊費を無償とするだけでなく往復交通費を負担していること等)、ホテルAとX間のやり取りの具体的経緯や関係性の状況なども踏まえて判断されることになります。 事実関係によっては、Xの投稿が自主的な意思による表示とは認められず、事業者の表示であるとして要件1の充足が認められる可能性があります。 また、Xがたとえば「広告」「PR」といった文言や、ホテルAから無償での宿泊機会を提供されて投稿しているといった文言をSNSに表示し、それが内容全体から一般消費者に事業者による広告であることがわかるものと評価できる場合でなければ、Xの投稿は、一般消費者からして事業者の表示であることを判別することが困難なものに当たり、要件2にも該当します。 そのため、インフルエンサーを活用する場合、SNS投稿において「PR」などの文言を表示したり、無償での宿泊機会を提供されて投稿していることを積極的に明示したりすることなどで、事業者の表示であることを明らかにすることが考えられます。 もっとも、「広告」「PR」とどこかに記載しさえすればその態様を問わずステマ規制をクリアできるものではなく、例えば、大量のハッシュタグを付した文章の記載の中に「#PR」や「#広告」といったハッシュタグを埋もれさせる場合、事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているとして、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である(要件2)と評価されるリスクがあります。不明瞭な方法と見なされないよう、わかりやすく表示することが必要です。 同規制に違反した場合、景品表示法7条に基づく措置命令の対象となり、事業者に対して、「内閣総理大臣は…行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる」(景品表示法7条1項)とされています。措置命令に違反した者には、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が科され、又はこれらが併科されます(景品表示法36条)。また、法人等には、両罰規定に基づき、3億円以下の罰金が科される可能性もあります(景品表示法38条)。