台湾の現代小説。クラシックの名曲が随所に登場、音楽と人生が重なり合う立体的な物語―クオ・チャンシェン『ピアノを尋ねて』永江 朗による書評
台湾の現代小説。「わたし」は幼いころ天才音楽家と呼ばれていたが、ピアニストへの夢は破れ、いまは調律師をしている。わたしは「林(リン)サン」と日本語で呼ばれる実業家と出会う。林サンは3カ月前に妻のエミリーを癌で亡くしたばかり。エミリーが経営する音楽教室のピアノを調律していたのがわたしだった。わたしと林サンの交遊が始まり、やがて共同でビジネスをするため2人はニューヨークに向かうのだが……。 ピアニストになれなかった中年男、20歳年下の妻と出会って音楽への関心を持つようになった初老の男、そして老いる前に死んでしまった音楽家の女性。3人の男女の老いと人生と音楽が語られる。要所要所に音楽が出てくる。ラフマニノフの「ヴォカリーズ」(のピアノ版)、リヒテルが弾くシューベルトの「ピアノソナタ18番」、グレン・グールドのバッハ「ゴルトベルク変奏曲」。ドビュッシーの「アラベスク」やリストの「ため息」も。ぼくはそのつど曲を聴きながら読んだ。巨匠たちの人生も重なって小説が立体的になる。音楽も人生も偶然が左右する。 [書き手] 永江 朗 フリーライター。 1958(昭和33)年、北海道生れ。法政大学文学部哲学科卒業。西武百貨店系洋書店勤務の後、『宝島』『別冊宝島』の編集に携わる。1993(平成5)年頃よりライター業に専念。「哲学からアダルトビデオまで」を標榜し、コラム、書評、インタビューなど幅広い分野で活躍中。著書に『そうだ、京都に住もう。』『「本が売れない」というけれど』『茶室がほしい。』『いい家は「細部」で決まる』(共著)などがある。 [書籍情報]『ピアノを尋ねて』 著者:クオ・チャンシェン / 翻訳:倉本 知明 / 出版社:新潮社 / 発売日:2024年08月29日 / ISBN:4105901966 毎日新聞 2024年9月21日掲載
永江 朗