【書評】史上最高のメジャーリーガー大谷翔平は何を語ったか:石田雄太著『大谷翔平ロングインタビュー 野球翔年II MLB編2018‐2024』
投げるのが「一番の娯楽」
大谷にとって、ベストの状態で投げることが最高の「楽しみ」であり喜びだったのだ。2019年のシーズンは投げられなくなったことで、「一番の娯楽がなくなった感じもします」「打席に毎日、立つのも楽しいは楽しいんですけど(略)やっぱりマウンドというのは特別なものなんだなということを改めて感じます」と語るが、黙々とリハビリに取り組んでいく。 体幹やインナーマッスルを鍛えるトレーニングに励む日々。意外にも焦りはなかったようで「(故障によって)技術練習がなくなった分、フィジカルの練習が増えている。だから、そんなにフラストレーションはありません」と振り返る。 ここでは紹介しきれないが、本書の最大の読みどころは、リハビリに努める一方で、ひたすらMLBで通用するための投球術、打撃術をつきつめ、それについての自身の考えを詳らかにしているところである。彼はリハビリ中であっても「(野球が上手くなる)イメージは持てる」と語っている。
「フォアボールもツーベースになると思わせれば……」
2021年は、大谷にとって正念場のシーズンだった。彼は、二刀流として「今年はラストチャンスかな」という危機感をもっていたという。「チームとして、僕が2つをやっていくという方針に対して、見切りというか、そういう感じはありましたね」と打ち明ける。 そしてその年、見事に結果を残した。投手として9勝2敗、打者としてホームラン46本でシーズンMVPに輝いている。大谷は「その数字は自分にとってのこれからの基準になると思っています」と語り、さらに高みを目指す。 しかも、大谷は投手でありホームランバッターでありながら、けがを恐れず盗塁にも貪欲に取り組んでいる。それは何故なのか。 大谷からは「盗塁が増えれば、出したら走られるプレッシャーを相手のピッチャーに与えることができます。フォアボールもツーベースになると思わせれば、ピッチャーも勝負しようと思うかもしれません。だから走るということは大事なんです」という答えが返ってくる。それは個人の成績よりも常にチームの勝利に貢献したいと考えているからなのだ。 彼は率直にこう語る。 「一番になることは大事だし、一番になればうれしいんです。僕は絶対に世界一になりたいし、一番の選手になりたい。ただ、そういう気持ちで日々を過ごすからこそ、一番を目指して取り組む練習だからこそ、大事だし、おもしろいんです」