【歌舞伎町を彷徨う若者】居場所のない女の子たちを「自業自得」だけで片付けないで
「死にたい──。初めてBONDに相談した時、その言葉しか出てきませんでした」 ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ21歳の女の子。彼女は、NPO法人「BONDプロジェクト(以下、BOND)」に保護され、都内某所のシェルターに入居している。BONDは望まない性行為や妊娠、家族からの虐待、パートナーからのDVといった生きづらさを抱える10代、20代の女の子を支援する団体だ。 【画像】【歌舞伎町を彷徨う若者】居場所のない女の子たちを「自業自得」だけで片付けないで 地方出身の彼女は専門学校への進学のため19歳で上京したが、親からの金銭援助はなく、学費が支払えず1年で退学した。生活費も賄っていた奨学金が退学で停止したため、生活は困窮。親との関係性から家に帰ることもできなかった。 人に何かを伝えることが苦手という彼女は働くこともままならず、生活ができなくなり、自らBONDに連絡をした。その時の言葉が冒頭の「死にたい」だった。 「当時は、人に自分や家族のことを話すのが怖かった。何より、相談したことが親にバレたらどうしようという不安がありました」 彼女のように、親との関係にトラウマや悩みを抱えている未成年者は、親への情報提供を恐れて、学校や児童相談所に不信感を抱き、相談できない子も少なくない。 実際、BONDが2023年4月~24年3月に実施した5508件の電話相談や面談のうち、女の子が抱える問題の背景に「家族」がある場合が5141件にも上っている。 BONDでは年間3万件以上のLINE相談などを受ける傍ら、新宿、渋谷、池袋など、夜の繁華街に出て、リスクを抱える女の子がいないかのパトロールも行っている。
「早くつながっていれば」相談の入り口となるために
「眠らない街」新宿・歌舞伎町。8月のある夜、小誌取材班はスタッフ4人とともにBONDのパトロールに同行した。 「立ちんぼ」がいることで有名な大久保公園周辺にある閉店後の薬局の入り口にボサボサの赤髪をした女の子が座り込んでいた。BONDのスタッフであるレイアさん(28歳)が駆け寄り、声をかける。 「こんばんは。何してるの?」 「ホスクラの開店待ちだよ。お姉さんもホスト通ってるの?」 聞けば家出中の19歳。半年前からホストクラブに通い、未払い金もある。レイアさんは彼女の話を親身に聞き、最後に「何か困ったらここに連絡してね」とBONDの説明と連絡先が載ったカードを渡した。 パトロールは1日で50人ほどに声をかけ、30~40人にカードを渡す。この日は飲食店の並ぶ大通りだけでなく、ホテル街や裏路地、Wi-Fiが飛んでいる駐車場など、ハイリスクな子が多いと思われるエリアを重点的に見て回った。パトロールにマニュアルはない。スタッフ数人でまとまって動きながら、気になった女の子に声をかけていく。 「お風呂に入っていないだろうなという臭いがする子もいますし、あてもなくゆっくりと彷徨うように歩いている子も気になります。他にも、服装やメイクが季節に合っていない子は、虐待を受けていてずっと家から出られなかったのかなと感じたり、目の焦点が合っていない子は、OD(オーバードーズの略。医薬品を決められた用量を超えて過剰摂取することを指す。特に、かぜ薬や咳止め薬などの市販薬を、本来の効能効果ではなく、精神への作用を目的として大量に服用する若者が増えている)してるかもしれないと思って声をかけています」(レイアさん) 女の子たちの状況に寄り添い、支援につなげているレイアさんだが、かつては自身もBONDに助けを求めた一人だった。 「短大の保育科の授業で、初めて自分が『虐待』されていたことを知りました。母親は一番や100点を取らないと褒めてくれず、それ以外はネグレクト状態で暴力も受けた。自分が虐待されていたんだと自覚したら、途端に体調が悪くなって、トラウマを思い出すような授業もつらくて出られなくなりました」と当時を振り返る。心身ともに不安定な日々の中、彼女の居場所はツイッター(現:X)になり、そこで目にしたリストカットやODといった自傷行為をするようになった。