【歌舞伎町を彷徨う若者】居場所のない女の子たちを「自業自得」だけで片付けないで
「最初は怖かったですが、ラクになれるなら、と思いました」 その後、友人との飲み会で経済的支援をしてくれる男性と出会い、同居を始めたものの、今度はその男性からDVを受けてしまう。 「もう自分ではどうしようもなくなった」というレイアさんは短大の授業で聞いたBONDの存在を思い出し、連絡。21歳で緊急保護となった。その後、スタッフへの誘いを受け、支援活動にも参画するようになった彼女は今、BONDの主要メンバーとして最前線に立っている。 「もっと早くBONDにつながっていればよかったと思っています。ただ、自分の親のことをチクるようで抵抗感もあり、限界になるまで勇気が出ませんでした。そういう女の子たちのことも、支援する側の気持ちも、どっちも分かる私がパトロールをすることで相談の『入り口の入り口』になれると思っています」
ODに薬物依存……出せなかったSOS
レイアさんと一緒にパトロールをするサクラさん(23歳)もかつてBONDに助けを求めた一人だ。 関西出身の彼女は兄からの虐待や親からのネグレクトにより、12歳から家出を繰り返していたという。 「人を信じたり、期待したりすることがなかったので、誰かを頼るということはありませんでした。友達は好きでしたが、学校では明るいキャラクターだったので、私が悩んでいることも知らなかったと思います」 取材時に見せてくれた笑顔とは裏腹に、彼女の両腕には無数の自傷痕が残っている。中学生の頃、嫌なことから解放されたくて、ツイッターで調べリストカットをやり始めたという。 「切った時のフッと軽くなる感覚を身体が覚えてしまって、嫌なことがあると衝動的に繰り返すようになりました。ツイッターでODのことを知り、闇アカで知り合った仲間と一緒にパキったり( 抗うつ剤の名前が語源とみられる言葉で、市販薬などのODによって気分を高揚させること、また、そのような目的でODすることを指す)もしました。 でも高校生になって、このままでいいのか考えたら、絶望的で……。気付いたらユーチューブで『死にたい』と検索していて、そこでBONDの存在を知りました」 自傷行為やODは、サクラさんやレイアさんのように、誰にも頼ることができなかった生きづらさを抱える子が自分の心を守るための感情の発露にもなっているのだ。 国立精神・神経医療研究センターの嶋根卓也氏は、「市販薬を乱用する若者が急増しています。SNSによる情報拡散や、ドラッグストアなどで手軽に入手できることも大きな要因です。乱用を繰り返し薬物依存になると、乱用を中止したいと思っても、自分の意思ではやめられない状態になる」と指摘する。 「死にたい」「消えたい」「ODレポ」など、ODや自傷行為にまつわる言葉が今、SNS上には溢れている。興味本位でも一度検索すると自動の〝おすすめ機能〟で自分の意思に反して関連投稿が表示される。 レイアさんは「ODは〝ご褒美〟の感覚でした。今でも、次の出勤日を逆算して、このくらいなら飲めるなとか思ってしまうこともある。ADHDの発達障害もあるので、目に入ると衝動を抑えるのは正直大変です。でも、今は相談できる人たちが周りにいます。『私はやめられたよ、あなたもきっとやめられるよ』と言いたいです」と話す。 サクラさんも「パトロールしていると、私の腕を見て『私もやってるんだ』って話をしてくれる子もいます。切るほどつらいという感情やその衝動もよく分かるけど、私自身、後悔しています。電車で何度も見られますし、何より半袖をかわいく着たかった……。何かあったら自傷する前に私たちに話すことで、一息置いてほしいと思っています」。 居場所のない女の子たちが抱える事情は一人ひとり違う。彼女たちがその先に売春やODをしてしまうことについて、BONDの代表である橘ジュン氏は「大人にも責任の一端がある」と指摘し、こう続ける。 「街には『よく来たね、自分の人生だし好きにしなよ』と彼女たちを受け入れ、一緒に酒を飲み、ODをし、寝泊まりし、お金が無くなったら売春という稼ぎ方を教える大人たちがいる。子どもからしたら、説教する大人よりありがたい存在なのかもしれませんが、それは『無責任』だからできることです。実際に補導されるのは未成年である子どもたちで、教えた大人にお咎めはない。まだ分別もつかないような子どもを無責任に不健全な関係に巻き込む大人がいるのも現実です」 周りを頼れないつらさや、自傷に駆り立てる衝動的な感情は当事者にしかわからない部分もあるだろう。 国は、孤独・孤立対策として、「誰一人取り残さない」社会を目指している。そうであれば、我々はこうしたセーフティーネットからこぼれてしまった彼女たちのことを直視し、その声に耳を傾け、手を差し伸べるべきではないか。彼女たちの抱える事情も知らずに、ただその行為を咎め、自業自得だけで片付けてしまう大人たちはあまりにも無関心で無責任ではないか─。自戒も込めて、取材した私たちはそう強く感じた。 「なぜやっちゃダメなの?」 パトロール中、女の子からよくこんな質問をされるという。 そんな時、大人はどう接するべきなのか、どのような言葉をかけることができるのか。彼女たちの声は、我々に簡単に答えの出ない問いを突き付けている、そう感じざるを得なかった。
梶田美有,野口千里