長嶋さんの喜びの笑顔が最高の瞬間――アナウンス歴60年の徳光和夫から見たオリンピック実況
オリンピック開会式・聖火ランナーとしての「ミスターの雄姿、それを支える松井、寄り添う王さん。それを見て滂沱(ぼうだ)の涙でした。ただもう少し実況で盛り上げてほしかった」。そう語るのは徳光和夫さん。立教大学時代から数えると60年あまりのアナウンサー人生で、80歳をこえた今も司会者として現役で活躍している。長嶋茂雄さんと読売巨人軍の熱狂的ファンとしても知られ、日テレ時代はプロレス実況で人気を博し、スポーツへの造詣も深い。そんな徳光さんにとって今回は2度目の東京五輪となるが、はたして開会式や競技の名場面はその目にどう映ったのか。そしてさらに、徳光流の“オリンピック実況”をお願いした。(ジャーナリスト・中村竜太郎/Yahoo!ニュース Voice)
西矢椛さんへの「13歳、真夏の大冒険!」の実況はしびれました
―オリンピックはどの競技に一番注目されましたか。 徳光さん: 私の場合は当然、野球とソフトボールにはなりますけれども、コロナ禍でテレビ越しにいろんな競技を見ていますと、どれも面白くて食い入るように見ちゃいましたね(笑)。前半戦でいうと、西矢椛さんの金メダル、スケートボード・女子ストリートは良かったですねえ。今大会初めての競技で、若い人に人気のスポーツというのは存じておりましたが、あまり馴染みがなくて詳しく知らなかったんです。いやあ、同じくスケボーで金メダルを獲得した22歳の堀米雄斗さんもそうですけど、男女ともに好青年揃いですよね。テクニックやスピードに引きつけられましたし、競技に対するひたむきさや、純粋に楽しんでいるという感じが伝わりました。演技が素晴らしいのはもちろんのこと、天真爛漫な笑顔に心を打たれましたね。 西矢椛さんについては、13歳の少女の演技すべてが清々しい。見ていてこちらも笑顔になります。それと中継で、CX(フジテレビ)の倉田大誠アナウンサーが良かった。「決まったー! 13歳、真夏の大冒険!」、喜びを交えての実況。このフレーズを最初から考えていたかどうかわかりませんけど、最高の実況でした。元NHKアナウンサーの刈屋富士雄さんがアテネ大会の体操男子団体決勝で「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ」と名実況されて、これぞ実況の醍醐味だと感じさせてくれましたが、それに通じるワードセンスでした。同業者としてもしびれますね。