長嶋さんの喜びの笑顔が最高の瞬間――アナウンス歴60年の徳光和夫から見たオリンピック実況
長嶋・王・松井の聖火リレー。徳光だったら、こう実況した
―徳光さんといえば長嶋茂雄さんです。王貞治さんと松井秀喜さんと一緒に聖火ランナーで登場したのはクライマックスシーンでした。どうご覧になられましたか。 徳光さん: いや、なんと申しましょうか、ミスターの雄姿、それを支える松井、寄り添う王さん。それを見て滂沱(ぼうだ)の涙でした。ミスターと王さんは1964年の東京オリンピックの観客席にいた方々で、今大会への思いというのは並々ならぬものがあったでしょうし、深い感慨が見て取れました。松井はミスターの愛弟子。ヤンキースで活躍した世界のスーパースターでありますが、彼はそうした存在感を消して、ただひたすら長嶋さんのためにそこにいる。そんな佇まい、師弟愛にも心が震えました。お三方はゆっくりとゆっくりと歩を進め、聖火が医療従事者のおふたりに引き継がれる。その時カメラは長嶋さんの顔をアップにするんですが、マスク越しではありますが、長嶋さんの喜びの笑顔がわかりました。いやあ、最高の瞬間でした。 ―あの名場面を徳光さんが実況するとどうなりますか。 徳光さん: 「これは長嶋茂雄さんです。長嶋茂雄さんに今、点火されました。そして王貞治さんがお隣にいらっしゃいます。王さんがトーチをお持ちであります。王さんは長嶋さんをリスペクトしていらっしゃいます。そんな目線で長嶋さんを支えるような気配りがあります。そしてなんと、松井秀喜です。あのメジャーリーグで活躍致しました松井秀喜。もちろん長嶋茂雄さんの愛弟子でありましょうけれども、今日はみずから松井秀喜であるということを忘れるかのごとく、長嶋茂雄を支えております。師匠を支えております」 ―あの時の映像が立ち上るようですね。 徳光さん: 咄嗟の実況ではありますけれども(笑)。 「トーチ、聖なる火が点火されました。カメラが寄った。長嶋さんのこの笑顔。ミスターの笑顔です。日本中が拍手です」 こういう感じでしょうか(笑)。いろいろ勝手なことを申し上げましたけど、開会式の今回の実況が朗読口調といいますか、あれが現代風なのかもしれませんが、個人的には、また違った実況も聞いてみたかったなと思いますね。実況で「引き」と「間」を作ると、競技を見る楽しさが倍増しますし、やはりスポーツには実況での盛り上げが欠かせないと思うんですよね。 --- 徳光和夫 1941年、東京生まれ。1963年に日本テレビ入社後、プロレス中継や歌番組を担当。1979年「ズームイン!!朝!」の総合司会を担当し、人気を博す。1989年からフリーアナウンサーに。80歳をこえた現在も司会業をこなしている。自著『徳光流生き当たりばったり』が発売中。