シーズン100敗危機の西武…貧打同様深刻な“投壊の元凶”髙橋光&與座が抱える「7㎏増の反動」
じつは髙橋と一緒に自主トレを行い、不本意な成績に沈む西武の投手がもう1人いる。アンダースローの與座海人(28)だ。入団5年目の’22年に自身初の10勝をマーク、昨年は2勝6敗に終わったが、同年オフに背番号15に変更されたことからも期待が窺える。 與座も髙橋と同じく体重を7kg増やして87kgで春季キャンプに臨んだが、状態が上がらないまま開幕二軍に。5月18日に今季初昇格したが、4試合で防御率3.38と思うような球を投げられずに6月8日、登録抹消となった。 7kg増の影響について與座は5月22日、こう話している。 「体重を増やした重たさはそこまで感じなかったけど、可動域が少し狭くなったことで動きづらさが若干ありました。そこは僕のメンテナンス不足もあるんですけど、そういうデメリットが結果として出てしまって……。今は動きやすくするために、体重は一時より減らしています」 昨今、髙橋や與座のようにオフシーズンに体重を一気に増やす選手が少なくない。その理由は「運動エネルギー=質量×加速度」で決まるからだ。すなわち大きな体をホームベース方向に速く動かして投げることができれば、より強い球を発射できるからである。 ただし、体重を一気に増やすのはリスクを伴う。そう指摘する専門家が2人いる。 1人目は’00年代後半にロッテのクローザーを務め、現在は社会人野球のJFE東日本で投手コーチを務める荻野忠寛氏だ。 「一気に体を大きくして、自分の体をうまく扱えなくなる選手をたくさん見てきました。バッターならバットとボールが全然当たらなくなるとか、コントロールのいいピッチャーが全然ストライクが入らなくなるとか、できていたことが急にできなくなるんです。成長期の子どもが一気に身長が伸びるときに自分の体をうまく扱えなくなることをクラムジーといいますが、そのくらい人間は体が一気に変化すると対応できない生き物だということです」 JFE東日本では投手陣に「体重は月に1%以内の変化にとどめる」というルールを設けている。その理由について、「今流行っているように体を一気に大きくすると、ケガのリスクが上がるだけ」と荻野氏は説明した。トレーニングは一気に成果を求めるのではなく、地道に継続することが重要になるからだ。 一方、帝京大学スポーツ医科学センターで講師を務め、動作解析の専門家である大川靖晃氏はこう語る。 「体重を一気に増やしても大丈夫な人もいるし、そうでない人もいると思います。大事なのはボディイメージ。自分で自分の体をどう思っているか、というイメージのことです」 例えば立位でかかとの場所に線を引き、そのまま寝たら頭はどの位置に来るか。想像と実際の箇所が一致していればボディイメージが明確で、離れていれば不明瞭ということだ。ボディイメージを正しく持てていれば体が大きくなっても思ったように動かせるが、そうでなければ操作性が低くなる。 後者の場合、一気に増量するとプレーに支障を来すリスクがある。大川氏が続ける。 「バッターで言えば、増やした7kgのうちの例えば2kgくらい腕が重くなっていたら、2kg重い腕で打たないといけない。つまり、感覚が以前と違うはずです。自分のボディイメージを広げていくときの限界を超えていたら、自分が思っているように動いていないということなので、そこまで増やすのは良くないと思います。逆に自分のキャパシティの範囲内で、体重が増えても思った通りに動かせるなら問題ありません。どこまで増量するかは、その人の持っているキャパシティ次第かなと思います」 大きくなった体を思うように扱えなければ、パフォーマンスが低下する。一気の増量は感覚を変化させるため、そうしたリスクが潜んでいるのだ。 歴史的な敗戦を重ねる西武は現状、先発投手の駒不足で苦しい戦いを強いられている。無期限での二軍調整が続く髙橋と與座は不名誉な「シーズン100敗」を逃れる上で、救世主となれるだろうか。 一度狂った感覚を取り戻すことは容易でないだろうが、確かな実績を持つだけに、後半戦に向けて復調が求められる。 取材・文:中島大輔 1979年、埼玉県生まれ。スポーツノンフィクション作家。プロからアマチュアまで野球界全般を取材している。著書『中南米野球はなぜ強いのか』(亜紀書房)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他に『野球消滅』(新潮新書)、『プロ野球 FA宣言の闇』(亜紀書房)、『山本由伸 常識を変える投球術』(新潮新書)など。
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