「人とのつながりが薬になる」―内門大丈先生インタビュー【後編】
神奈川県平塚市において地域に向けた認知症啓発活動、コミュニティの活性化などに尽力されている内門大丈先生は、人とのつながりや交流が認知症の改善に大きく影響すると実感し、医療の提供にとどまらないさまざまな支援を実践されています。その取り組みや認知症診療で大切にしていることになどについて聞きました。(全2記事の2) ※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」(https://manseiki.com/)によるものです。
◇認知症医療に携わるようになったきっかけ
私は横浜市立大学医学部を卒業後、初期研修期間を経て伊豆逓信病院(現:NTT東日本伊豆病院)の精神科に勤務しました。主に境界性人格障害や摂食障害などの精神疾患の患者さんの診療をしていましたが、当時から痴呆疾患医療センター(認知症疾患医療センター)も併設されており、その患者さんも診ていました。治療薬がなくご本人や家族がお困りの様子は、精神疾患のある若年の患者さんより厳しい状況に見えたことをよく覚えています。そのようなとき、病院の視察にこられた小阪 憲司先生(横浜市立大学名誉教授)との出会いがありました。小阪先生はレビー小体型認知症を発見された方で、ナラティブかつバイオロジカルに脳科学へのアプローチをされていました。私はそれまで精神療法を中心とした診療をしていましたが、先生と出会ってもっと勉強したいという思いが募り、大学院に進学して小阪先生の神経病理学のグループに入りました。大学院では認知症について神経病理的な研究を行うとともに、物忘れ外来にて臨床経験を積みました。その後、米国ジャクソンビルにあるメイヨークリニックへの研究留学、総合病院精神科の臨床経験を経て2011年に湘南いなほクリニックでの診療をスタート。2022年にさらに発展させる形でメモリーケアクリニック湘南を開設しました。
◇認知症医療に欠かせない要素は「忍耐力」
メモリーケアクリニック湘南は内科診療に加えて認知症の早期診断・早期治療、高齢者の総合診療、在宅診療・遠隔診療まで対応し、全人的な医療の実践に努めています。地域のかかりつけ医として機能し、外来通院できなくなったときにはアウトリーチして訪問医療を提供し、認知症だけではなくほかの病気も含めて診ながら、最期の看取りまで関わること。これが私の認知症医療の理想です。 この理想の医療のために欠かせない要素は、やはり「忍耐力」でしょう。認知症の患者さんは年齢を重ねるにつれてどんどん厳しい状況に陥ります。短期的に一生懸命援助することはできても、長期的に関わり続けることは難しいものです。患者さんや周りのご家族が「もう手立てがない」という状況になっても、そばに居続けて伴走することが必要です。認知症診療に限らず、その考えは大切だと思います。