【米中対立の漁夫の利を得ていたベトナム】トランプ関税で後退か、それでも高い南シナ海での存在感
フィナンシャル・タイムズ紙のジャカルタ特派員が、同紙の解説記事で、「ベトナムは、米中貿易戦争以降、一番恩恵を受けてきた国の一つである。次期トランプ政権においては、黒字削減等に取り組まざるを得ないが、状況によっては越経済に甚大な悪影響が及ぶ可能性がある」と警告している。要旨は次の通り。 ベトナムは、トランプの最初の任期中、米中貿易戦争の最大の受益国のひとつだった。しかし、トランプが大統領に返り咲き、包括的関税を課すという脅しを実行に移せば、同国は打撃を受ける可能性が高い。 ベトナムは近年、対米貿易黒字で中国、メキシコ、欧州連合(EU)に次ぐ第4位であるが、これは世界の製造業がトランプ関税の影響を避けるために中国から工場を移したからである。しかし、この「チャイナ・プラス・ワン」の成功は、ベトナムを脆弱な立場に追いやった。 ベトナム経済は、輸出の30%近くを占める米国に大きく依存している。ベトナムは今後、特に中国への関税を回避するために同国を経由する製品について、厳しい監視を受ける可能性が高い。 トランプは今回の大統領選挙でベトナムについて言及しなかったが、かつてベトナムについて「唯一最悪の悪用者」、「中国よりも更にひどく我々を利用している」などと発言したことがある。 ベトナム政府関係者は、トランプ大統領の貿易敵視政策がもたらす潜在的リスクをよく理解している。 東南アジア全体が米中貿易戦争の恩恵を受けるなか、ベトナムほど投資誘致に成功した国はない。ベトナムの成功は、中国に近いという優位性、ビジネス・フレンドリーな政策と優遇措置のおかげだ。 2023年のベトナムへの外国投資は366億ドル。ベトナムの対米貿易黒字は1040億ドル以上に急増し、トランプ大統領が就任した17年の380億ドルの約3倍となった。 トランプ退任後、米越関係は強化されてきた。両国は昨年、越政府が与える外交関係の最高レベルである「包括的戦略パートナーシップ」に関係を格上げした。バイデン政権はまた、中国による先端チップ製造へのアクセスを制限するキャンペーンの一環として、ベトナムでの半導体生産を後押しする取り組みを支援してきた。 専門家によると、ベトナム政府はトランプをなだめるために、中国からの投資に対する監視を強めたり、反ダンピング調査を開始したり、あるいは米国企業から軍事機器や民間航空機、液化天然ガス(LNG)を購入することで貿易黒字を縮小する措置を取る可能性がある。しかし、それで米国の貿易懸念を和らげることにはならないだろうと、専門家は指摘する ベトナム政府は、「バンブー外交」という非同盟外交政策の下、米中と友好関係を培ってきた。しかし、米国からの購入が増加すれば、ベトナムは最大の貿易相手国であり隣国である中国を怒らせないように注意しなければならない。 中国からの投資も、23年には80%増加した。今年、ベトナムで最も多くの新規プロジェクト数を占めたのは中国である。