インテル、ナイキ、ディズニー…凋落した巨人たちが「復活」すると信じる理由
この記事は、ベストセラーとなった『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者で、ニューヨーク大学スターン経営大学院の経営学者であるスコット・ギャロウェイによる連載「デジタル経済の先にあるもの」です。月に2回お届けしています。 【画像】インテル、ナイキ、ディズニー…凋落した巨人たちが「復活」すると信じる理由 株式市場が最高値圏にある一方で、かつて業界を代表する企業の評価額が暴落している。わたしは、これら没落した企業巨人たちを理解する鍵が、分散化、中国、そして世代交代にあると考えている。
分散化の波
1996年、ブランド全盛期の頂点で、わたしはリーバイ・ストラウス社の取締役会で「ブランドと小売の未来」について講演を行った。そのプレゼンテーションのタイトルは「距離の死」。その趣旨は、デジタル技術が既存の流通経路に関係なく製品やサービスを分散させるため、ブランドは消費者と直接つながる必要がある(eコマース)というものだった。 それは現実となった。アマゾンは小売をデスクトップ、モバイル、音声へと分散させた。ネットフリックスはDVDを郵便受けに届けるところから始まり、その後インターネットの公平性を保証する「ネット中立性」の恩恵を受けて、巨額の投資なしにストリーミングサービスを展開。これにより、従来のケーブルテレビ会社が数百億ドルをかけて構築したインフラと同等のサービスを、ほぼ無コストで提供することが可能になった。 パンデミックは、オフィス(リモートワーク)、医療(遠隔診療)、教育(オンライン学習)の分散化をさらに加速させた。 しかし、わたしが見落としていたのは、AIが分散化の強力な触媒となり、誰もが一気に他者を追い抜く可能性を与えるということだった。
インテル
ムーアの法則は、インテル共同創業者のゴードン・ムーアにちなんで名付けられた。これは、マイクロチップ上のトランジスタ数が2年ごとに倍増するという観察結果だ。この法則は、止まることを知らない技術進歩の象徴となった。わたしがハース・ビジネススクールを卒業した当時、インテルは最も人気のある就職先だった。2年ごとに倍増するムーアの法則の波に乗っていたからだ。 しかし今や「インテル」という名前は、皮肉にも別の現象を表すようになった。好調な業界のリーダーでありながら、驚くべきスピードで企業価値を失うという現象だ。インテルほど、組織的かつ大幅に価値を失った大企業は稀だろう。 2000年のピーク時、インテルの時価総額は5000億ドルに達した。それ以降、S&P500指数が243%上昇する一方で、インテルの株価は80%も下落した。仮にインテルがS&P500並みの成長を遂げていたら、現在の企業価値は今の16倍になっていたはずだ。 この没落ぶりを如実に物語るのが、NVIDIAのCEOであるジェンセン・フアン個人の資産価値がインテル社全体を上回っているという事実だ。さらに、インテルはダウ工業株30種平均から除外される危機に瀕している。 市場の変化に伴い、多くの象徴的企業が消えていくなか、インテルの凋落は特筆に値する。通常、大手企業がこれほどの価値崩壊を経験するのは、業界全体が衰退し、企業が無力化した場合だ。しかし、インテルの場合は違う。半導体市場は世界的に前年比18%増※1、中国では21%増と活況を呈しているにもかかわらず、だ。 つまり、この失態はインテル自身の責任なのだ。インテルのブランド力と創業者アンディ・グローブの遺産が、おそらく過去20年で最悪の経営実態を覆い隠してきたと言えるだろう。 2021年初頭、インテルとNVIDIAの時価総額は拮抗していた。しかし今や、AIの世界で魔法使いのような存在となったNVIDIAは、30社のインテルに匹敵する価値を持つまでに成長している。 インテルは技術革新の波、特にモバイルとAIの分野で出遅れた。PCやラップトップ向けプロセッサでは依然トップの座を維持しているものの、かつて持っていた「未来を予測し、それを実現する力」は失われた。その未来を掴んだのはNVIDIAだ。 わずか5年前、NVIDIAは『コール・オブ・デューティ』のような高解像度ゲームを支える二流の半導体企業に過ぎなかった。しかし今や、世界で3番目に価値のある企業へと成長し、AIチップ市場の70%から95%を独占するまでになった。 PER(株価収益率)99倍というインテルの株価は、依然として過大評価の可能性がある。だが、ゲームはまだ終わっていない。インテルは戦略を転換し、NVIDIAやアップルなど他のチップ企業の製造請負業者になろうとしている。 皮肉なことに、かつては「究極の参入障壁」と考えられていた製造工程が、今やアウトソース可能なものとなった。つまり、インテルは自らが支配していた市場で「黒子」に徹しようとしているのだ。 半導体製造受託(ファウンドリ)市場の60%を占めるTSMCは53%の粗利益率を誇る※2。一方、チップ設計に特化したNVIDIAは75%という高い利益率を達成している※3。明らかに、ブランド力のあるチップの設計・開発の方が製造よりも収益性が高い。 しかし、1000億ドルという国家規模の投資が必要なこの市場で、インテルにはまだチャンスがある。皮肉にも、その最大の強みは失うものが少なくなったことだ。ブランドと知的財産を活かし、苦境の中で最良の選択をすれば、ここから劇的な価値向上の可能性も秘めている。