インテル、ナイキ、ディズニー…凋落した巨人たちが「復活」すると信じる理由
ナイキ
ナイキを身につけると、より強くなった気がする。わたしはナイキが大好きだ。特に、「銀メダルを獲得することは、金メダルを逃したことと同義である」という妥協のないブランドポジショニングには感銘を受ける。しかし、過去3年間で企業価値の50%を失った今、ナイキは表彰台どころか、競技場の外に追いやられた感がある。 皮肉なことに、パンデミック中のランニングブームは、ナイキではなく競合他社に追い風となった。Hokaの売上高は前四半期に27%増加し、Onは第3四半期に46%も伸びた。一方、ナイキの前CEOジョン・ドナホーは、同社のイノベーション鈍化の原因をリモートワークに求めた。 ドナホーの下でナイキは、デジタルとD2C戦略に舵を切った。実は、ナイキが私のクライアントだった頃、私もこの戦略を提唱していた。デジタル化の波で、ナイキの最大の武器だったマス広告が効力を失うと考えたからだ。 しかし、この戦略は思惑通りには進まなかった。スマートバンド「FuelBand」は市場に浸透せず、前四半期のD2C収益は13%も減少した。最終的にドナホーは、ナイキが小売パートナーを軽視してデジタルとD2Cに傾斜しすぎたことを認めざるを得なくなった。 この誤算は大きな痛手となった。パンデミック後、実店舗を中心とした小売は予想以上に力強く回復。ナイキは最先端の小規模小売業者との重要な接点を失ってしまったのだ。 さらに追い打ちをかけたのが中国市場の急激な冷え込みだ。第4四半期の中国での売上高は19%も減少し、ナイキは投資家に更なる悪材料を警告せざるを得なくなった。今四半期の全体の売上高は前年同期比10%減、中国市場では4%減となっている。 ナイキの抱える問題は深刻だが、同社の強みを活かせば解決不可能ではない。新CEOのエリオット・ヒルは、ブランドの原点回帰を象徴する人物だ。彼の就任発表で株価は一時7%上昇したが、その後の業績不振(売上高10%減)で下落した。 投資助言ではないが、ナイキの株価収益率(PER)が2020年の高値73から23に低下していることは、株価が過小評価されている可能性を示唆している。しかし、回復には時間がかかるだろう。 根本的な問題は取締役会にあるかもしれない。最近の散々な決算発表後、ナイキは今後ガイダンス(業績見通し)を提供しないと発表した。これは愚策だ。老舗大企業というより、経験不足の新興企業のような判断だ。危機的状況下では、むしろ情報開示を強化すべきだ。 投資家への重要情報提供を放棄することを取締役会が容認するなら、それはナイキの経営体制の脆弱さを示している。このような姿勢では、S&P500構成銘柄としての資格が問われかねない。