「静かにして!」と言っても効果なし…「発達障害・グレーゾーンの人」がスッと静かになる「伝え方」のコツ
第三者を利用して客観的な「お得情報」として伝える方法も
そしてもうひとつ、「音量を指定する」という手も考えられます。適切な声量を図で示した「声のものさし」などと呼ばれる教材があります。 子どもがいる家庭であればこの教材が役に立つかもしれません。たとえば、「あの人」が見ている前で子どもに声量調節を教えるのです。 「電車のなかで『6』でしゃべる人がいるでしょう? うるさいから迷惑だよね。でも、『1』や『2』でしゃべると『落ち着いたいい人だ』と思われるよ」 といったような感じで耳に入れるわけです。下のイラストのような言い方もできます。 「客観的な情報」や「他人事」のように、守れば得すると感じるように伝えるのがポイントで、そこさえ押さえれば、子どもがいない家庭でも、たとえば「あの人」の友人や、「あの人」の実家の家族などを介してうまく働きかけられる可能性があると思います。 ひと言・ふた言、もしくはひと手間・ふた手間にすぎませんが、これを「する」か「しない」かで、あなたと、そして「あの人」が日ごろ感じるストレスは大きく減らせるかもしれません。
「やる」か「やらない」かで生じる大きな違い
ここでまた、A君をめぐる話に戻ります。実は友人とA君のエピソードには後日譚がありました。 友人が具体的な指示をこまかく出すことで、A君はきちんと仕事がこなせるようになったのですが、ある日そのこと(つまり具体的な指示のほうがA君にはわかりやすいこと)を知らない上司が、A君にこんなふうに言いました。 「もうすぐBさんの面談の時間だ。いま3階にいるはずだから、A君、Bさんに声をかけてきて」 A君は指示どおり2階に行き、少しして戻ってきました。 しかしBさんはいっこうに来ません。しびれを切らした上司がA君を問い詰めます。 上司「A君、Bさんに声かけてくれた?」 A君「はい。『もうすぐ面談ですよ』って声をかけました」 上司「それだけ? なんでちゃんと来るのを確認しないの!?」 この職場では「声をかける」というのは、慣例的に「その人が来るのを確認する」もしくは「連れてくる」とワンセットだったのですが、A君は文字通り「声をかける」だけで任務完了だと思っていて、Bさんにそれ以上の働きかけはしなかったのでした。 A君のリーダーである私の友人はその場にいなかったのですが、カンカンになった上司から「Aは何なんだ! やる気がないなら辞めてもらう!!」と聞かされて「違うんです、彼には言い方があるんです。伝えてなくてすみません」と、上司をなだめて説明しました。 結局、上司は怒りを撤回したそうです(もしかしたら、自分の言い方にも至らないところがあったと気づいたのかもしれません)。 私が新刊に込めたのは、(障害が本当にあるか否かに関係なく)あなたも、そして「あの人」も、こういうストレスを感じることなく共生するために今日から使える「言い方・接し方」、そして考え方です。 職場で、あるいは家庭で個性的すぎる人を前に「どうすればいいんだ!?」と悩んでいる方に、ぜひ参考にしていただければと思っています。【第2回】「発達障害の人が忘れっぽいのはなぜですか?」漫画家が専門家に取材してわかった「深すぎる理由」では、具体例を挙げてご説明しています。
野波 ツナ(漫画家)