【佐藤ジョアナ玲子のアマゾン旅】アマゾン川流域に暮らす人々の優しさに救われる
“鋼”のメンタルの相棒が作る初めてのキャンプ飯
船外機が使えないまま明日もアマゾン川を漂うしかないのかと想像すると気が重い。けれど、腹が減っては戦はできぬ。ということで、ご飯を作ります。ペケペケ号で作る初めてのキャンプ飯は、簡単に作れるパスタ。というか私たち、食料はほとんどパスタしか用意していません。 ペケペケ号は木でできているから、舟全体がまな板みたいなものです。座っているイスをまな板代わりに野菜を切っているのは、今回の川下りの旅の相棒マキシーちゃん。慣れた様子でナイフを扱う彼女は、かなりのアウトドア派で、ときどき森にこもったりしているそう。私たちが初めてプカルパの宿で出会った日も、彼女は「2週間ぶりにシャワー浴びるのよ。気持ち良い!」と言って水風呂を浴びていました。 船外機の故障にもイラつく素振りを見せず、料理を作ってくれるなんて。これまでのいろいろなアウトドア経験で培われたのであろう彼女の鋼のメンタルが、今はなによりも頼もしい。 まるでトラブルなんてなにも起こっていないような気持ちにさせてくれる、穏やかで美しいアマゾン川の朝。 「アマゾン川には舟に乗った盗賊がいるから、もしほかの舟が近づいてきたら絶対に止まらず逃げること」 これは私たちが旅に出る前に町の人たちから教わったことですが、今回一緒に係留させてくれたおじさんは、近づいてくる私たちを見て警戒するどころか助けてくれました。 「川の人は穏やかだよ」 おじさんはハッキリ言いました。困ったときには助け合うのが普通だと。それは、今まで町で聞かされてきたアマゾン川の怖い人たちの噂話とは正反対の優しさでした。漁師さんみたいに毎日川に浮かんでいる人は、町の人とは見えている川の世界が少し違うようです。
森に暮らすおじさんに救われる
快晴の朝、漁師のおじさんは漁へ戻り、私たちも川を漂い始めてしばらくすると、またペケペケ号によく似た屋根付きの舟を発見。パドルを高くあげて左右に振ると、私たちに気が付いて近づいてきてくれました。 「あっ!君たち、昨日もこの辺りにいたよね?なんか様子がおかしいなと気になってはいたんだけど、まさかスクリューが脱落していたなんて」 おじさんは川岸に住んでいて、実は昨日も私たちを見かけたというのです。テキパキとロープでペケペケ号と自分の舟を繋いで、近くの町まで引っ張って行ってくれることになりました。 「でも、町へ行く前にちょっと寄り道をしよう。この近くに弟の家があるんだ」 町まではまだ遠いのに、おじさんが突然船を減速させて到着した船着き場は、一見するとただの崖。それも、崩れそうな土でできた崖。そこに自分たちでスコップで掘ったみたいな階段があって、登った先に家がありました。 こちらがそのお家。切り開いた森の中にポツンと建ってます。屋根はあるけれど、壁はレジャーシートを張っているだけなので、実質壁は無いも同然。 8歳の男の子が住んでいますが、突然現われた外国人に驚いて、森の中に逃げてしまいました。しばらくするとガサガサ音がして、木の裏に隠れている男の子を発見。チョコレートのお菓子を見せても、出てきてくれません。この子は学校へ行けているのだろうか。 ◆市場の果物はどこから来るのか? 家の外の世界には舟がないと出られないから、毎日行くとなるとガソリン代がかさみます。例えばアメリカなら、僻地に住む子供たちがインターネットで自宅からオンライン授業を受けたりするけれど、このお家には電気は通っていません。 なんだかちょっぴり心配になってしまうけれど、私たちが知らないだけで、ほんとうの僻地に住んでいて勉強どころではない子供たちは、たくさんいるのでしょう。ただひとつだけ幸いなのは、この一家の森では最低限の食べ物には困らないということ。川があるから魚はもちろんのこと、森ではバナナやパパイヤなどの果物をたくさん育てていて、町で売っているのだそう。 逆にいえば、町の人たちの台所の一部は、こういう僻地で暮らす人々に支えられているのです。