東京国立博物館『内藤礼 生まれておいで 生きておいで』レポ。縄文の土製品から、生と死に思いをはせる
ガラスのなかが生の外、ケースの外は生の内
本展は同館内の3か所(平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジ)で構成されている。途中、同館の常設展示を巡りながら、回遊するかたちとなっている。 平成館企画展示室にあたる第一会場には、まず特設された通路をくぐって入室する。この部屋の正面に、制作のきっかけとなった縄文時代の『土版』がある。鬼頭の説明によると、「ケースのなかが生の外、ケースの外は生の内」なのだという。『土版』は、母を思わせる女性の胴体を表した土製品で、豊穣や多産を願ってつくられたと考えられている。 第二会場の本館特別5室では、これまでもさまざまな企画展が開かれてきた。今回は、内藤の求めに応じて、長年閉ざされていたという大開口のシャッターが解放され、自然光が降り注ぐ空間となっていた。同館に勤め始めて数十年という鬼頭も、シャッターが開けられた状態を見たのは今回が初めてという。さらにカーペットと仮設壁も取り払われ、建築当初の「裸の空間」が現れていた。 生まれたままの姿になった空間には、いくつかの小さなガラスケースが地に置かれている。そのなかには、同館で今回初公開という獣骨や、猪形、猿形などの土製品が収められている。その周りには木の枝や石、絵画が配置されていた。 内藤はそれら獣骨や土製品について、かつて生きていた動物たち、そして土製品をつくった人々、それを見た人もまた「生の内のものたちに呼びかけていると、私には思えてなりません」と話していた。 天井から吊り下がっている『母型』は、内藤が現場での制作に入ってから発想したものだという。現場でこの規模の新作を作り始めるのは初めての経験だったそうだ。 壁面には、絵画の連作である『color beginning / breath』が展示されている。これは、入り口から入って左側(西側)の壁から始まり、その続きが9月から始まる銀座メゾンエルメス フォーラムの個展で展示される。そして、右側(東側)にある連作は、銀座メゾンエルメス フォーラムで展示される連作から続いているものだという。2会場にまたがる構想も、今回が初めてのことだという。