子どものための''不動産屋''? 家と土地からアプローチする福祉の形 #豊かな未来を創る人
子どもたちが多様な人に愛される社会へ
── 今後、どんなことに取り組んでいきたいと考えていますか。 実は、今後はシェアハウスを減らしたいんです。一時期、シェアハウスが居住支援の課題解決になるのではないかと、やろうと言い出す人がたくさん出てきたことがありました。でも、大変な思いをしている人を集めて「助け合いなさい」なんて、そもそも簡単にできることではないんです。 弊社がそれをなんとかできているのは、これまでの7年間、自分自身もシェアハウスに暮らす中で培った運営ノウハウと経験があるから。例えそれを書類にまとめて渡したところで、誰でも運用できるわけではありません。 また、シングルマザー向けのシェアハウスを始めてもトラブルが多く手間がかかるのに採算性が低く、途中でやめてしまう人がほとんどです。せっかく始めても持続性がないと結局意味がないじゃないですか。 そこでこれから取り組みたいのが、余っている不動産を子どもの将来のために活用することです。子どものための活動をするために場所が欲しい人がいる一方で、空き家問題がありますよね。家庭の事情や、荷物が家に残っていて貸せない、代々の土地だから普通の市場で売りたくない、といった物件がまだまだあります。 そこで、「不動産が持つ社会的価値を、子どものためになる活用につなぐ」をミッションに、「一般社団法人子どものための不動産活用機構」を設立しました。子どものために活用したいという考えに共感してくれる方から、土地建物の寄付をしてもらったり、安く貸してもらったりする非営利徹底型の社団法人です。大切にされてきたおうちを、子ども食堂や学習支援など子どものために何かしたい方に貸したり、まるまる親子世帯に住んでもらうことを考えています。今後はこの活動を広げ、子どもたちのための物件の活用を進めていきたいと考えています。
── シェアハウスという形態は手段で、その先で子どもたちやお母さんの幸せな暮らしの在り方を考えていると。 私はこの7年間、お母さんや子どもたちと一緒に暮らしながらいろいろ話を聞いたり、現場を見たりしてきて、暮らしという目線で誰も気づいていないことに気づいてきた自負があります。だからこそ、私はシェアハウスではなく、もっと広い意味での構造を変えていかないと、本質的な課題解決にならないと強く感じています。 政治に頼るのも一つだと思いますが、声を上げ続けられるものが制度になっていく中で、親子の課題は子どもの年齢によって変わるので、課題感が続かないんですね。だから、制度になりづらいという実感があります。 そこで、政治による解決が難しいなら、土地建物からやっていきたいと思っているんですよ。地主って、自分の土地の中で小さな社会をつくることのできる存在じゃないですか。「無職のシングルマザーを断って」と言っていた大家さんと逆のこともできるということです。まずはその土地建物を切り口に構造を変えていく。業界が経済価値で計る不動産を、社会的価値に光を当て、先代の想いと共に子ども達のための未来に活用される社会にしていきたいです。 ── 最後に、取り組みを続けていく中で思い描く社会像を教えてください。 子どもが子どもらしく、子どものままでいられて、楽しくハッピーな社会です。そのためには、誰かからちゃんと大切にされるという「愛」が必要だと思います。だから、子どもたちが親だけでなく、隣の人や学校の人、近所の八百屋のおばちゃん、多様な人に大切にされている社会になってほしい。 ただ、それは大人同士が大切にし合っていないと実現できないんです。夫婦の関係や会社の人との関係を大人が大切にしているからこそ、子どもを大切にできる。だから、子どもを大切にするために、まず大人がそうであれるような構造を不動産という切り口からつくっていきたいと思います。
文 : 安藤ショウカ 取材・編集 : 木村和歌菜 撮影 : 荒井勇紀