子どものための''不動産屋''? 家と土地からアプローチする福祉の形 #豊かな未来を創る人
進む関係性の貧困。不動産というアプローチ
── シングルマザーシェアハウスを運営してきた中で、どのような問題意識を抱いていますか。 シングルマザーに関わる問題として目立ちがちなのは、数字として分かりやすい「経済的な貧困」です。だから世の中には物や資金を与えるだけの支援もあります。それはそれで必要です。でも実は根本的な問題はほかにもあって、それが「関係性の貧困」なんです。 経済成長の中で、それまであった人と人とのつながりがどんどん希薄になっていると感じます。どんな人が家の隣に住んでいるか知らない、祖父母や家族との交流もほとんどない。困ったときに地域で助けてくれるつながりがない中で、周囲との関係性の貧困化が進んでいます。 その中でとりこぼされてしまうのは大人だけではなく、発信力がないために気づかれない子どもたち。そうして、異変に周囲が気づかないまま虐待で亡くなってしまう子どもたちもいるのです。現在の取り組みを通じて、その希薄になった関係性をつなぎ直す住環境構造をつくっていきたいと考えています。
── 年々取り組みを広げられ、最近は自治体との協業もされていますよね。 豊島区住宅課のサポートによって「ポノハウス池袋本町」ができました。豊島区では、区内にある空き家のオーナーと、社会的な目的で活用するNPOや企業とをマッチングするシステムをつくっているんです。その中でNPOが借りた空き家を、私たちが運営しています。 ここで紹介いただいた空き家は、すごく大切にされてきた思い入れのある家で、荷物が残っているなどの事情があって売ったり貸したりするのが難しく、豊島区に相談があった物件なんですね。そこで、オーナーさんとはあらかじめ契約期間が決まっている定期借家契約を結んで、再契約も返却も選べるようにすることで、安心して貸していただける仕組みにしています。 物件の中に残っている荷物もシェアハウスでは喜んで使ってもらえていますし、社会的に必要な方のために市場より安く借りられて、私たちとしてもとてもありがたい取り組みでした。 ── シェアハウスを運営する中で「やっててよかった」と思うのはどんな瞬間ですか? 最長で立ち上げ時から7年間暮らしている親子がいるのですが、入居当時は保育園児だったお子さんがもう小学校高学年になったんです。一緒に暮らしながら、その成長を見られているのがすごく嬉しいですね。 ほかにも、シェアハウスを卒業しても「また住みたい」と言ってくれる子がいたり、入居前は両親の不仲で笑顔がなかった子が、シェアハウスの暮らしを通じて子どもらしく笑ったり泣いたりできるようになったり。そういう変化にもやりがいを感じます。