昔は整っていたのに…美文字のコツは「脳内文字」を正すことから
「昔はもっと字がきれいだったのに、いつの間にか崩れた文字になってしまった。そんな悩みを抱えている人も多いのでは。実はそれ、脳内にある「文字の形」が乱れているからなのです。『信頼度が上がる「美文字」練習帳』監修の青山浩之さんに美文字を書くコツや練習法について聞きました。 【関連画像】美しい文字を書くには、美文字を脳内にインプットし、実際に書いて練習し、動作や形を脳に定着させることが重要 (前編 『気合は不要、信頼度が上がる「美文字」の極意』) ●「雑な文字」を目にしていると、どんどん文字が崩れていく 今回は実際に「美文字」を書くポイントについてお話しします。 職場ではいつも忙しく、文字を書くのは走り書き。誰に見せるわけでもないし……と雑に書いていると、自分の書く文字はどんどん崩れていってしまいます。なぜかというと、つねにその乱雑な文字を視覚情報として脳内にインプットしてしまうからです。 みなさん、ひらがなを習い始めたばかりの頃は、お手本と自分の字を見比べ、常に美しい文字を意識していたはず。それがいつの間にか自己流だったり、崩れたりして、きれいな文字の形が思い浮かばなくなっていないでしょうか。 私たちは手で文字を書くとき、手を動かすよりも先に無意識のうちに頭の中に「お手本とする文字の形」を思い浮かべます。この「脳内文字」が乱れていると、その形にそって手を動かすため、書く文字も乱雑になります。つまり、脳内文字を正さないことには美しい文字は書けないのです。 そのため美しい文字を書くには、①「手本とする文字と見比べる」②「細部の違いを発見する」③「文字を書いて練習する」④「美文字を脳内にインプットする」といったループを繰り返し、脳に定着させる必要があります。 美文字を脳内にインプットするため、『美文字練習帳』で、毎日少しずつでも練習してください。そして、走り書きではなく、自分の文字と向き合う時間を意識して持つようにしましょう。 『信頼度が上がる「美文字」練習帳 新装版』は指の動きをスムーズにするための「指トレ」から始まり、「はね」や「払い」、使用頻度の高い点や線の書き方といった動作のコツから、文字のすき間を均等にそろえるといった形を整えるコツへとステップアップしていきます。「漢字編」と「ひらがな編」のどちらから始めてもよく、年齢や性別を問わず練習できます。 また、こうした練習を通して文字を書くことによって心が穏やかになります。毎日忙しいビジネスパーソンにはおすすめです。文字の外形を整える、文字の中心をそろえる、横の線が何本もあるときは1本だけ長くするように意識する──など練習帳に書かれていることを反復しつつ、文字に向き合う時間を楽しんでください。最初は毎日数分だったのが、いつの間にか文字を書く楽しさに目覚め、時が経つのも忘れて練習していた……という日が来るかもしれません。 ●筆記具は? 左利きでも美文字は書ける? 実際に練習を始めるとなると、「筆記具は何を使ったらいい?」「左利きでも文字は上達するの?」と気になることもあるでしょう。よくある質問に答えましょう。 Q 筆記具は何を使えばいい? A 筆記具といっても鉛筆、ボールペン、万年筆、筆ペンなどさまざまな筆記具があります。選ぶポイントは「用途によって使い分けること」です。文字を練習するのに最適なのは鉛筆で、私自身は手帳を書くときには芯の太さが0.9ミリ、濃さは2Bのシャープペンシルを使っています。あまりにも芯の太さが細いと筆圧をかけたときに折れてしまうため、最低でも0.7ミリ以上を使いたいところです。 Q 左利きでも美文字は書ける? A はい、書けます。大河ドラマ『光る君へ』主人公のまひろ(紫式部)を演じた吉高由里子さんも左利きだそうですが、見事な文字を書かれていましたよね。実際の身体の機能としては、右手も左手も巧緻性に差はないはずです。 ただ、歴史の中で文字は多数派の右利きの人に書きやすいように開発されてきていますので、左利きの人にとっては書きにくい、窮屈だ、と感じられるかもしれません。そんなときは「右上がりの線」をなめらかに書けるよう、練習しましょう。親指、人さし指、中指の3本でペンを押し出すように動かします。右利きの人と同様に、『美文字練習帳』の指トレで手指のトレーニングを重ねれば、なめらかに動くようになります。 Q 手っ取り早く文字をきれいに見せるには? A やはり上達には毎日の練習が大事です──と言いたいところですが、今すぐどうにかしたい人は「文字のすき間」を意識してください。例えば「様」という文字を文字の中のすき間をそろえずに書くとバランスが崩れますが、隣り同士のすき間を均等にするだけで、読みやすく見やすい文字になります。 Q 美文字を書くためのお薦め本は? A まずはやはり『「美文字」練習帳』です。私のこれまでの知見を余すところなくお伝えしていますので、ぜひ使ってほしいと思います。 こちらも私の本で手前みそですが『“きれいな字”の絶対ルール』(青山浩之 著、日経BP)でも美しい文字を書くための意識改革、字形や文字配列のポイント、ペンのコントロール方法などについて詳しく説明しています。 大河ドラマの影響か、最近は平安文学や和歌に興味を持つ人が多いと言われています。そんな人には和歌に親しみつつ、文字も書ける『脳がみるみる若返る!なぞり書き・音読 百人一首』(中山佳子 著、篠原菊紀 監修、イースト・プレス)がお薦めです。日本の文化、日本の美しい言葉を美しい文字で書く味わいを楽しめると思います。 文字は自分の思いをぬくもりと共に相手に届けてくれます。文字のコツを知ることで、必ず自分らしい「美文字」が書けるようになります。そのために『「美文字」練習帳』を役立ててもらえれば幸いです。 取材・文/三浦香代子 構成/市川史樹 日経BOOKプラス編集部 写真/稲垣純也