50周年日本ハムから感じる“職業集団”ぶり「続投は当然」地元ファンは新庄監督へエール/寺尾で候
<寺尾で候> 日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。 ◇ ◇ ◇ 北海道を本拠にする日本ハムファイターズにとって、今年は創設50周年の節目だった。戦後の1946年に発足した「セネタース」までさかのぼると、78年間の歴史を刻んできた伝統球団だ。 監督の新庄剛志が4年目の指揮をとる。サラリーマンの世界で2年連続のビリ(最下位)だったら、上の顔を気にするさえない管理職は自分の保身のためにクビを切るだろう。 ポスト新庄の後継になるコマがあったたかどうかは不明だ。しかし球団フロントがリスクを負って新庄に賭けたのが間違いでなかったのは、今年2位までジャンプアップした成績が証明している。 これまでもダルビッシュ有、大谷らをとった経緯からも開拓精神が伝わってくるし、せっかく育った選手にFAで出ていかれても、若い芽に水をやる。フロントにけなげな“職業集団”ぶりを感じさせるではないか。 新庄も本人のタレント性を考えたら、ユニホームを脱いでも困ることもないだろう。だから去就が話題になったとき、とっとと身を引くのではとの臆測が流れたものだ。 しかし、新庄は監督業にこだわった。そこで新庄ハムの3シーズンをいかに評価しているかが気になったので、冬の札幌の街頭で日ハムファンに評判を聞いてみた。 札幌駅構内の喫茶店で隣になった初老の男性は「新庄監督になったときは、北海道移転から入会したファンクラブを退会しようかと思ったくらい否定的でした」と打ち明ける。 「指導者としての実績がない。引退後もバリ島で何していたかわからない。ファンサービスはいいが、本当に勝つ野球ができるのかと思った。でもそれは新庄剛志をよく知らなかったということだったかもしれません。今回の続投という結果は当然です」 行きつけの老舗ラーメン店で複数のファンを直撃した。「道民はほっとしているのではないでしょうか。大歓迎です」「栗山監督の後半から低迷したチームを強くした」「最初の2年間の最下位は想定内」。 大通りまで地下を歩いた後、土産を買う百貨店に入った。「魅力あるゲームをする」「負けていても最後に逆転するのでは? と期待感を持たせてくれる」。「見ているものを引き付けるチームに成長させた」。 今季32試合の逆転勝利は、ソフトバンク(31試合)を上回るリーグ1位だった。セ・リーグは阪神の28試合が最多だから両リーグトップ。“逆転のハム”は魅力的だったようだ。 「指導者として、選手を大切にし、その気にさせ、ポテンシャルを発揮させる力をもっている」「信念がしっかりとあり、考えがぶれない」。 ある教育関係者は「今の時代に求められるリーダーの資質をもっている」と持ち上げた。 「わたしも組織をマネジメントする立場ですが、新庄監督は理想のリーダー像です。職員(選手)を大切にし、信じることができる。その能力を十分に引き出すことができる。偉ぶらない。負けたのは自分のせいと思える」 今年は04年に起きた激動の「球界再編」から20年目だ。経営者たちが描いた「1リーグ構想」で、パ・リーグは消滅の危機にあった。当時は労使ともに“役者”はたくさんいたが、新庄も主役の一人だ。 長野で開催された球宴で史上初のホームスチールを決めて盛り上げた。1リーグ制導入に反対するプロ野球選手会が、臨時大会でストライキ決行の方針を固めた翌日のことだ。 落合、清原に次いで両リーグ3人目の球宴MVP受賞者になった新庄は「これからは、メジャーではない。セ・リーグでもない。パ・リーグです!」とぶち上げるのだった。 これだけ地元から熱い声援が届けば背筋も伸びるというものだ。ただ勝負の世界は甘くない。再び大航海にでる“船長”は「負けて、さらに野球が面白くなりました」と打ち明ける。“新庄劇場”の続編に乞うご期待というところか。(敬称略)【寺尾博和】