KYBの免震ダンパー不正と過剰管理社会日本
ブームとしての免震・制震
阪神淡路大震災の惨状以来、建築界では「免震・制震」の技術がブームのようになり、東日本大震災でさらに拍車がかかった。 これまでの耐震構造設計とは異なる考え方であり、コストアップになるのだが、安全第一を唱える(税金でつくる)官公庁を中心に、売れ行きに直結する高層のオフィスビルやマンションにも浸透していった。ブームというのはつまり、地震に対する安全を原点から検討するというより、免震・制震でありさえすればいいという状況であったといえる。 ひとことでいえばこの技術は、建築の安全を「機械」に頼るものだ。 ゴムやバネや油圧といったもので構成されている機械は動きもあり、コンクリートや鉄筋やガラスで構成されてほとんど動かない建築と比べて、耐用年数が圧倒的に短い。経年劣化のメンテナンスや大きく動いたあとの副作用など「本当に大丈夫だろうか」という若干の危惧があった。理論と実験だけではなく、実際の大地震を何回か経験するには百年単位の時間が必要なのだ。 案の定というべきか、2015年、東洋ゴム工業の免震ゴムに、今回、KYBの油圧ダンパーにデータ改竄問題が起きた。ブームによって急増した需要に供給が間に合わないことが原因の一つと思われる。
喉元が熱いうちに将来の方針を決めるな
考えてみれば、阪神淡路、東日本と、大きな犠牲者を出す震災が続く中、日本全体が防災ブームのようになっていたのではないか。政府の方針とマスコミ報道が防災意識を高める方向に傾くのは仕方ないにしても、安全の問題がブームになるのはどうだろうか。恐怖は合理的判断を曇らせるものだ。 一例が、東日本大震災のあと、被災地に築いている高大な防潮堤である。その論理を、想定される南海トラフ地震などに当てはめれば、日本中の海岸を高い壁で囲わなくてはならない。それよりも、いざという時には避難に使える鉄筋コンクリート構造あるいは重量の鉄骨構造の建築(例外を除いて津波には流されていない)を点在させる方がはるかに合理的であり、少し経過した時点では、専門家も地元も防潮堤に対する反対意見が多くなっている。喜んでいるのは巨大な復興予算を使いきれなかった政府自治体とゼネコンだけだが、一度決定した政策は簡単には変えられない。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉の逆に「喉元が熱いうちに将来の方針を決めるな」という格言も成り立つように思う。