KYBの免震ダンパー不正と過剰管理社会日本
油圧機器大手「KYB」(旧カヤバ工業、東京都港区)と子会社カヤバシステムマシナリーによる免震・制振装置の検査データ改竄が大きな問題になっています。2015年に東洋ゴム工業(兵庫県伊丹市)による免震ゴムのデータ改竄が発覚し社会問題化しましたが、わずか数年の間に相次いだ免震装置絡みの不祥事に、憤りを感じている人も少なくないのではないでしょうか。 ダンパー改ざん、不正は許されないが安全への過度な心配は不要、技術への信頼失墜は重大 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、相次ぐ不正について「現代日本のものづくり技術が壁に突き当たっている」と指摘します。そして、その背景には、時代とともに技術者の置かれている立場が変化してきたことがあるのでは、と問いかけます。若山氏がこの問題について論じます。
ダンパーのデータ不正と安全
フィリピンのボホール地区における防災プロジェクトに参加して「日本の建築耐震技術は高度化しているが、災害は常に人知を超えていくので、野生的ともいうべきサバイバルの意志が重要だ」と述べて日本に戻ったら、大変なことが起きていた。 建築の免震・制震装置に使われる油圧ダンパーの製造にデータ改竄があったというのだ。その分野のトップメーカーであり、供給されたダンパーの数が多く、しかもきわめて重要な建築に使われていたことから、日本社会の安全を揺るがす大問題となっている。 もともと滅多にない大きな地震が来たときに揺れをコントロールする装置であり、地震に対する建築安全のメカニズムは複雑多様なものであるから、そのまま致命的な危険性に直結するわけではなく、取り替えも可能ということで、パニックに陥る必要はないと思われるが、人命に関わるデータ改竄であるから、由々しき問題であることは間違いない。 しかもKYB(カヤバ工業)という歴史のある技術力の高い企業だ。 マスコミ報道は過熱気味だったが、先日のヤフーニュースに名古屋大学減災連携研究センター教授の福和伸夫氏のコメントが出た。僕もよく知っている人で、建築防災の権威でもあり、専門的な説明としてはそちらを参照するのがいいと思われる。 ここでは少し視点を変え、一般的な建築専門家として、現代日本の安全技術に関する社会文化論的な見解を展開してみたい。 不正は検査員の申し送りだったという。つまり幹部の指示による会社ぐるみの組織的不正というわけでも、一部特異な技術者の個人的不正というわけでもなさそうで、責任者の特定が難しく、日本の産業技術の網の目に潜在する構造的な歪みが露呈したものと思われるからだ。