「素肌にジャケットに裸足」柄本佑が語る森山大道、荒木経惟の息づかい
中高時代が蘇る街「新宿」を当時の姿で
一方、柄本さんが大好きだったという森山氏と荒木氏、二人の共著『森山・新宿・荒木』のイメージから、森山氏には念願の新宿での撮影を依頼した。 「大道さんと言えばやはり新宿だし、自分が大道さんの新宿というフレームの中に入るってどういうことなんだろうみたいなことを、単純に自分が見てみたい、という感じでした。この衝動というか、想いに何かあるんじゃないかと思い、ストッパーをかけたくないから、よーいドンでやってみようという感じで撮ったんですね。衣装も含めて、やっていく中で見つかってくるもの、見えてくるものがあって。そのほうが僕としては豊かだし、面白いなと思うので、そういう作り方をお願いしていたというか、自然にそうなっていました」 しかも、「新宿」は柄本さんにとっても特別な場所でもある。新宿と柄本さんの接点は、中高時代に遡る。それは青春の場所であると同時に、現在の俳優であり、映画人である彼を作った土台とも言える時間だったようだ。 「中学高校ぐらいのときに、いろいろ悶々としながらも、とりあえず映画だけ観ようと思って、新宿の歌舞伎町によく入り浸っていたんです」 まさに、フォトブックの表紙になっている写真は、当時のジーパンとTシャツと下駄という出で立ちを再現したものだと言う。 さらに、このTシャツにも物語がある。実はこれ、柄本さんが15歳のとき、初出演にして初主演を務め、第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第13回日本映画批評家大賞・新人賞を受賞した映画『美しい夏キリシマ』(2003年)のスタッフTシャツなのだ。まだ子犬のような無垢な愛らしさがあった当時のデビュー作のスタッフTシャツと、十数年ぶりに出会ったいうエピソードが面白い。 「映画の公開から十数年後に、『こんなものが出てきましたから差し上げます』と、十数年越しにスタッフTをいただいたんですね。でも、どう着ていいかわからなくて、ずっとそのまま持っていて。でも今回、あのスタッフT着てみようかなって思い出して。自然と自分のルーツみたいなものが集結していったんです」