事業化秒読み「曲がる太陽電池」。中国先行でも勝てる、積水化学の総合力【ペロブスカイト太陽電池】
次世代太陽電池と目される「ペロブスカイト太陽電池」。 薄くて軽いフィルム状で、簡単に曲げられることから、大きく重い「シリコン太陽電池」ではこれまで設置できなかった場所にも設置できる。再エネ拡大の切り札として期待されている「日本産」の技術だ。 【全画像をみる】事業化秒読み「曲がる太陽電池」。中国先行でも勝てる、積水化学の総合力【ペロブスカイト太陽電池】 国内はもちろん、中国など世界でも熾烈な開発競争が繰り広げられている。大手化学メーカーの積水化学工業(以下、積水化学)も、研究開発を進めてきた世界のトップランナーの1社だ。 積水化学では、太陽光の変換効率が15%の30cm幅フィルム型ペロブスカイト太陽電池の製造プロセスを構築し、すでに企業や自治体を巻き込んだ実証実験を進めている。 コスモ石油とは、サービスステーションの屋根やタンク壁面への設置に挑戦。東京都とは東京国際クルーズターミナルで耐風圧や塩害に対する耐久性などの確認を進めている。2025年には大阪万博での設置も目指す。 積水化学でPV(太陽電池)プロジェクトのヘッドを務める森田健晴氏は 「いま確実に言えるのは、2025年までに小型(30cm幅)のペロブスカイト太陽電池を活用して事業化するということ。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトでは、2025年までにメートル幅の製造プロセスの技術開発は完了させようとしています」 と進捗を語る。 積水化学はいわゆる「太陽電池メーカー」ではない、いわば“新参者”。それでも最前線で世界と競えるのは、ひとえにこれまで培ってきた化学メーカーとしての総合力のたまものだ。
変換効率だけでなく「耐久性」で勝負
積水化学がペロブスカイト太陽電池の開発に取り組み始めたのは2011年頃。2009~2011年にかけてNEDOに出向していた森田さんが積水化学に戻ってきたタイミングだった。 「出向から戻ってきて何をやろうか考える中で、もう一人のメンバーから太陽電池をやりたいという声が上がりました。NEDOで環境やエネルギー関連のプロジェクトに参加していたこともあり、大学・研究機関の日本を代表する専門家との人脈がありました。それもあってこれまでのものとは異なる太陽電池をつくるプロジェクトを始めることができました」(森田さん) たった2人しかメンバーがいなかったプロジェクト開始当時について、森田さんは笑いながらこう語る。 住宅メーカーでもある積水化学では、もともと住宅へのシリコン太陽電池(他社製)の設置を先行して進めていた。フィルム型太陽電池を実現できれば、巨大な太陽電池産業の中でシリコン太陽電池が設置できない「ニッチ」な市場でさらに勝負できる可能性があった。 技術的な相性の良さもあった。 太陽電池のコストパフォーマンスは、光からエネルギーへの「変換効率」と「耐久性」によって大きく左右される。研究開発の現場ではどうしても変換効率を高める取り組みが注目されやすいものの、「耐久性なら、積水化学の技術で勝負できると思ったんです」(森田さん)と、化学メーカーとして培ってきた技術を生かせる領域だった。
三ツ村 崇志