ザック・セイバーJr.が熱弁、音楽から触発された独自のプロレス哲学、TMDKの野望
「音楽ファンがプロレスファンになってくれたら最高だよ」(ザック)
―Rolling Stone Japanはカルチャーメディアということで、ここからは皆さんの好きなカルチャーについて聞いていこうと思います。ザックさんはもともと音楽がお好きと事前に聞いたんですが、どういう音楽が好きですか? ザック 全部! オールジャンルだよ! ―オールジャンルですか!? ザック あまり知られていないインディーレーベルの方が好きではあるんですけど、日常的に聴くプレイリストには、テクノ、アンビエント、UKグライム、ヒップホップなどなど全て網羅されていると思う。 ―そのプレイリストは是非ファンの方に公開した方がいいと思います、本当に。 ザック 確かに! それはナイスアイデア! いろんなジャンルのものが入っているから、それぞれのジャンルのファンの方が興味を持ってくれるかな? 音楽ファンがプロレスファンになってくれたら最高だよ。プロレスの次に情熱を注いでいるものが音楽だから! ―ザック選手のルーツミュージックは何になるんですか? ザック 定期的に両親がお小遣いとして1ポンドくらい渡してくれていたんだけど、その全てを音楽に使うくらい音楽好きで。当時は、オアシスの『モーニング・グローリー』を買ったね。 ―オアシス復活は嬉しいトピックですね。 ザック 間違いなく!でも、試合があるのでライブに行く時間があまりないんだよね、残念……(笑)。 ―それこそ、(この取材タイミングでは)レディオヘッドのトム・ヨークもジャパンツアー中ですが、レディオヘッドもお好きだったり? ザック 『KID A』が好きだけど、僕はソロの方が好きかな。 ―ポップというよりオルタナティブの方が好みである。 ザック ブリットポップは8歳ごろから流行っていて、オアシスやブラーを聴いていたんだけど、高校生になるとポップパンク、主にアメリカ系のバンドが流行り始めていて。でも僕はUKパンクが好きで、バズコックスやザ・クラッシュ、ジョイ・ディヴィジョン、そこからポストパンク、シューゲイザーにハマったね。 ―日本でもライブに足を運ばれたりしますか? ザック もちろん! ―最近だとどういう方のライブに行かれましたか? ザック 試合数が少なかった時期は、ライブには結構行ったね。今年は試合数が多くあまり機会に恵まれてないけど、日本のバンドでenvyのライブには行ったよ。あと、ラッパーだとLootaとTohji。いろんなジャンルのアーティストのライブに行くのが好きなんだよね。ちなみにそのふたりのラッパーは知り合いだよ、フレンズです! ―これはさらに驚きの繋がりです(笑)。 ザック もちろんプロレスの選手や試合から影響されることも多いけど、それと同じく音楽からも影響されることが多いんだ。 ―例えばどういったところで影響されるんですか? ザック 僕が好きなスタイルやジャンルはメインストリームではなく、マイナーなものが多い。それってオレのやっているプロレスと似ている部分があると思うんだ。オレのプロレスはパワームーブやロープから飛ぶ派手なスタイルではなく、シンプルだけどテクニックをベースにした関節技がメイン。一般的に知られていないスタイルをいかに魅力的に見せて届けるのか、そういった部分でインスピレーションを受けることが多いんだよ。 ―なるほど。お話を聞くと合点がいきます。 ザック 例えば、ポストロックの曲で歌がほとんどない長い曲があったりするけど、普通の人ならきっと違和感を覚えたり、不思議に思うことがあると思う。けど、オレはそこに大きな魅力を感じるし、プロレスでは明確な意図を持っていまのスタイルを選んでいる。みんな注目するパワームーブやロープワークを使わずにプロレスを最大限魅力的に見せる。そういうプロレスをやりたいんだよ。 テクノ/エレクトリックのアーティストでBarkerというアーティストがいるんだけど、彼のアルバムで『DEBIASING』というEPがあって。この作品はテクノなのにキックドラムがない(笑)。でもテクノだからキックがあるという固定概念からあえて逸れることが魅力に繋がる気がするんだよ。 ―とても興味深い。ザック選手の技を見ているとめちゃくちゃクリエイティブで、なおかつ美しさも兼ね備えている。 ザック プロレスラーは何でもできるはずなのに固定したパターンに慣れてしまうことがあると個人的には思っているんだよね。もちろん伝統的な学び方に尊敬の念はあるんだけど、彼らふたりには自由で柔軟性のある環境を作ってあげたかった。TMDKはそんなフリーダムな環境でありたいと思ってる。 ―素晴らしいですね。 ザック TMDKの中でいちばん重要なのはバランスだね。リングの上では全力でプロレスをすることが大事だけど、試合が終わればワイワイとノリノリな気持ちでみんなと過ごす。このバランス感はTMDKならではだと思うし、唯一無二のユニットになれると思う。フジタはまだ若いし、こういう環境にできるだけ早めに入れることで更なる成長に繋げられると思って計画していたし、オオイワに関しては、ノアにいる間もオガワ(小川良成)さんから色々ヒアリングして、ニュージャパンに戻ったらすぐTMDKに入れるつもりで思いをめぐらせたよ。 ―ザック選手にとっておふたりがそれだけ魅力的な選手だったということですね。 ザック その通りだね。 ―ザック選手はプロレスを一つのアートだと捉えているというか。フィジカルで表現するアートを体現される方だなと思うんです。プロレスラーは格闘家でありながらアーティストであるという考えがあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか? ザック 例えば一般的にアメリカのプロレスを区分けするとスポーツエンタテインメントに入るのかな。でもオレは、プロレス=ファイティングアートという考えが根底にある。プロレスには他の格闘技とは異なる柔軟性や自由さがある。その自由度の高さを有効的に活用しないともったいないと思っている。 そして、オレの敵は、目の前に立っている相手ではなく、自分自身だから。自分の限界や自分が出来ること、そして周りが期待しているもの、そういった部分での戦いがいちばん重要だと思っている。己との勝負に勝ちたいと常に思いながらリングの上に立っている。