親に大事な話をするのは「おめかしして外出したときがいい」注目の人を動かす手法「ナッジ」の介護シーンでの活用方法を専門家“ちくりん先生”が解説
介護シーンで役立つナッジの事例
ナッジは介護を含めたコミュニケーションのすれ違いを解決する可能性を秘めているという。 「高齢になると認知バイアスが強くなり、今まで通りのコミュニケーション方法ではかみ合わなくなる場面が増えてきます。 そこでナッジを用いることで、反発を抑えて行動へと促せる可能性が高まります。仮にうまくいかなかったとしても、『認知バイアスのせい』と割り切ることができます。私は行動経済学を学んでから介護のストレスも人間関係のトラブルも大きく減りました」 記者の母(90代)の場合、要介護度が進んだら施設入居も検討したいのだが、自分の家が大好きな母からは、施設の話題を拒否されてしまう。この場合、ナッジをどう活用すればいいのだろうか? 「現状維持バイアスの強い高齢者にとって、『在宅か施設』の二択を示されると、現状維持の在宅を選びたくなるのは当然かもしれませんね。 現在バイアスが強い高齢者は、将来に向けた準備だなんて面倒なことはしたくなく、『いざその場になったら考えればよい』となりやすいのです。 認知バイアスが特定できると、それに応じたナッジが設計できます。現状維持バイアスが強い人に対し、いつもの人がいつもの場所でいつもの感じで提案をすると、いつもと同じ反応が返ってくるものです。これに対して、私がおすすめするのは『フランス料理店でランチをしながら話をする』という方法です」 自宅で普段着でいる時に提案を受けると、普段通りの回答になりやすいものです。 一方、フランス料理店にはおめかしをして出かけると、きちんとしたことを言いたくなるものです。服装を変えることで、行動を変えることを『ドレスナッジ』と呼びます。 また、お子さんに言われたことは反射的に『嫌だ』と言い返しても、お孫さんから『将来、高齢者医療をやりたいから、施設見学に一緒に行こうよ』と言われると、素直に受け入れられるものです。人を変えることで、判断を変えることを『メッセンジャーナッジ』と呼びます。 このように認知バイアスに沿った方法を試してみるのはいかがでしょうか」 *** 記者も初めて知った「ナッジ」。最初は難しいのではと思ったが、とても身近なものだと知り、介護生活での親子関係を良好に保つためにいかせると感じた。 取材・文/本上夕貴 写真/GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート