「元祖MINIの設計者が生きていれば、どんな車を造るか?」そんな発想から誕生したMINIの最新電気自動車の魅力
オリジナル・ミニの設計者が生きていれば、今どんなMINIをつくるだろうか? そんな発想から生まれた車はBEVオンリーのモデルだった。時空を超えて届いた新しいミニにモータージャーナリストの小川フミオが試乗した。 【写真集】新型ミニ「エースマン」の外観からインテリア、ディスプレイまで細部をのぞく
日本にぴったりのコンパクトなMINI「Aceman」に、2024年9月にコペンハーゲンで試乗した。オリジナル・ミニの設計者が生きていたら、今だったらこんな車をつくるのでは? というコンセプトで開発されたモデルで、実際スイスイ気持ちよく走る。 ミニ「エースマン」は、全長4mそこそこの4ドアボディをもった、BEV(バッテリー式EV)。なめらかなボディと、びっくりするぐらい斬新なインテリアという、個性が光るコンパクトモデルだ。秋が訪れてきていたコペンハーゲンの路上で見た実物は、写真よりずっと質感が高い。写真ではオモチャっぽいかなと感じていたけれど、ホンモノはバランスのとれたプロポーション、力強いタイヤの存在感、それに凝ったディテールなどで、大人が乗ってもサマになる出来だった。 「『エースマン』の開発に着手したとき、もし、オリジナル・ミニ(1959年)の設計者であるサー・アレック・イシゴニスが存命だったら、今ならどんなミニをつくっただろう、と考えました」そう答えたのは、2017年からミニのヘッド・オブ・デザインを務めてきたオリバー・ハイルマー氏。コペンハーゲンのカフェで、私のインタビューに応じて、「エースマン」のオリジンについて語った。 衝突安全基準を満たすためのボディの大型化は避けられなかったとしても、極力コンパクトにして、いっぽうでできるだけスペースを確保したインテリアの組み合わせは、確かに”ミニっぽい”と感じられる。さらに、なめらかなでシンプルに見えるボディ、再生素材を使いつつ心がわくわくするようなインテリアデザイン、それに省エネをはかったバッテリーの動力源が「エースマン」の特徴。どれも、もとにある価値観をたどれば、小さいことで燃費と使いやすさを追求しつつ、デザインとつくりで上質感を追求したオリジナル・ミニとの共通項のように思えてくる。 インテリアを例にとっても、リサイクルしたポリエステルをニットのようにして、さらにそれを層に重ねた2D素材を使い、それでダッシュボードやドア内張りを覆っている。色がグラデーションになるようなパターンを採用することで「居心地のよさを追求しました」とミニはその狙いを明らかにしている。 室内照明も凝っている。ドライブモードによって色が変わるうえ、その色が室内の数カ所に照射される。車に乗ることが、新しい体験になるコンセプトといってもいいかもしれない。そこに丸型のインフォテイメントシステムのディスプレイ。デザイン的にはかなりユニークだ。ナビゲーションシステムを起動すると、通常は矢印などで表される自車がミニのアイコン。まるでゲーム画面のように、自分が乗ったミニが地図上を移動していくのが面白い。 新世代と呼ばれる、新型ミニ「カントリーマン」と新型ミニ「クーパー」、それに今回のミニ「エースマン」を加えた3姉妹は、インテリアデザインとインフォテイメントシステムとでもって、従来なかった楽しさを乗員に与えてくれる。そこが斬新だ。 そういえば、2021年にミニは「ミニ ビジョンアーバノート(MINI VISION URBANAUT)」といって、「個人空間を自動車に置き換え」たコンセプトモデルを発表している。走らなくても車内にいるだけで楽しい思いをできることを目指したとするモデルだった。新世代ミニ3姉妹にもその要素が盛り込まれているようだ。 といっても「エースマン」、走りはちゃんとしている。ラインナップは、先述のとおりバッテリー駆動のEVのみ。最高出力135kWと最大トルク290Nmの「エースマンE」(駆動用バッテリー容量42.5kWhで一充電走行距離327km)と、160kWと330Nmの「エースマンS E」(54.2kWhと414km)。私が乗ったのは後者だ。 加速感はスムーズだし、速度はどんどん延びていく。けれど、パワフルさを強調していない。ハンドル操作に対する車体の動きは素直でも、かつてのミニのように硬めのサスペンション設定で俊敏さをことさら追求した「ゴーカート・フィーリング」でなく、乗り心地のよさもしっかり味わえる。洗練された印象だ。 充電環境が周囲にあり、バッテリー駆動のEVを無理なく使えるなら、ミニ「エースマン」という選択は大いにありうると思う。この車が走っていると、笑顔になりそうだ。いい意味で自動車離れした車といってもいいだろう。
Fumio Ogawa