「奇跡だ」無罪の医師が巣鴨プリズンで描いたスケッチがアメリカから返還された 76年越しに福岡市の遺族の元へ B29搭乗員を実験手術「九大生体解剖事件」で訴追
▽スケッチの返還を報告 2人は12月中旬に、真武さんの納骨堂へスケッチが戻ってきたことを報告しに行った。清志さんは「自分が父だったら恥ずかしがると思う」と笑う。ナナさんは「戻ってくるなんて想像していない父も私たちもお互いにびっくりさせられたのではないか」。スケッチは現在、ナナさんが自宅で保管している。「父の肉筆なので大事にしたい。このスケッチはわが家の宝物になった。しばらくは手元に置いて楽しみたい」。フェーブルさんの家族が大切に預かっていてくれたことを考え、劣化しないよう何とか保存するつもりだ。 ▽取材を終えて 今回、福岡市でスケッチが清志さんとナナさんに返還される場に記者(25)も同席した。時差がある中で、フェーブルさんの子どもや親族15人以上がオンラインで返還を見守ったのは、フェーブルさんや、スケッチへの思いの深さの証だろう。 多くの関係者を巻き込み、調整を重ね、時を超え、国境を越えた8枚のスケッチ。1枚ずつめくっていくと、一つの物語のように、真武さんが過ごした「非日常」の時間が伝わってくる。戦後78年が経過した今も、当時を生きた人が語りかけてくる代えがたい資料だ。生きていれば理不尽な出来事に出合うこともあるが、最も理不尽なことが戦争であり、戦争が終わってもあらがえない苦しみを抱えていく人がいることをあらためて感じた。このスケッチが将来、歴史の授業で取り上げられる日も来るのかもしれない。それほど後生に残し続けていきたいと、私自身強く思う体験だった。