連敗止めた新井良の決勝アーチに金本監督が「中年ではなく中堅の意地」
借金生活に陥落寸前の阪神を救ったのは新井良太(32)の今季第2号だった。2-2迎えた9回一死走者無しの場面で、7回から代打出場していた新井のバットが、その2打席目に火を噴く。横浜DeNAの守護神、山崎康のカウント1-1からの3球目のストレートをボールを潰すくらいの会心のスイング。「完璧でした」。自画自賛の打球は、レフトスタンドの上段へ。そして、ポーンとバットを放り投げる、いつものパフォーマンス。 「あれは、意識しているわけでなく、極力はやりたくはないんですけど」 それでも思わず癖が出たのは、それほど新井が必死だったという証拠だろう。 「とにかく、毎日、毎日、これだけたくさんのファンが来てくださっているんで、なんとか明日も、若い人、中堅、ベテランと一致団結してがんばります」 “中堅の”ひと振りが、藤浪と井納の好投とミスの応酬で2-2と拮抗していた試合にピリオドを打った。 ヒーローが場内でインタビューを受けている頃、ベンチ裏で金本監督も“中堅”という言葉を用いていた。 「あれを期待して出してるからね。なかなか当たらないけど(笑)今日は期待どおり。中堅の大和、今成、良太が、いいとこで打ったね。“若手だけじゃないぞ”っていう中堅の意地を見せてもらった。野球界では中年でなく中堅ね(笑)。正直、同じ位の力なら若い人を使う。そう考えると中堅は、若手以上のものを見せていかねばならないしチャンスは少ないが救ってくれたね」 「超変革」の名のもと、金本監督は、思い切った若手起用を続けている。 この日は、ルーキーの板山を1番、高山を初めて3番に置き、6番が原口、不振の続く鳥谷はなんと7番だった。2軍で調整中の西岡が、再度故障で復帰計画が白紙になってしまったが、1軍登録が検討されたときも、金本監督は「落とす若手がいない」と悩んでいた。新井の名前も、その際入れ替え候補に入っていた。 今季の阪神は若手だけでなく、中堅にもより激しい競争の原則が働く。しかも金本監督は、「力が同じなら若手」という方針だから、なおさら中堅のハードルは高いのだ。ミスが許されないどころか、チャンスで結果を残さねば、明日がない。そのチーム内サバイバルの風土が、大和の8回の同点二塁打を生み、新井に土壇場で決勝アーチを打たせる刺激となり、原動力となったのである。 好不調の波があり、相手に研究されると苦しくなる若手は、チームの勢いにはなるが計算は立たない。長いペナントレースを考えると、やはり中堅が土台になければ5割をキープする戦いは難しくなる。そう考えると金本監督が、「打線が停滞している」という危機にこそ中堅の働き場所がある。これもまた超変革のポジティブな面だ。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)