食欲がだんだんなくなってきて… 死亡した「27歳のペンギン」に生じた異変の正体 動物園の動物たちに起こっている「新たな問題」
人間の胃がんでは、吐血を引き起こすくらいに進行しても、外科手術で胃そのものや患部を取り除いたり、抗がん剤を投与したりして、治療の可能性を探ります。 しかし、フンボルトペンギンでは人間の患者さんに行われているようながん治療は確立されていませんので、27歳で亡くなった彼女についても、水族館では痛みを和らげたり、脱水を補ったりなど、薬や処置で症状を緩和することしかできなかったといいます。 持ち込まれた遺体を解剖したところ、胃に大きなクレーター状の潰瘍を認めました。がんというと、塊状のしこりをつくるというイメージがあるかもしれません。ですが、がんは必ずしもしこりをつくるというわけではないのです。
人間でもスキルス胃がんと呼ばれるタイプの胃がんは、しこりをつくらずにがん細胞が胃壁の中にしみこむように増殖して、胃が厚くなり、硬くなります。この子の場合も潰瘍ができて硬くなった胃に触れることで、すでに進行したがんであることがわかりました。 そして、全身をくまなく調べると、胃のほかに肺、肝臓、腎臓、卵巣など全身臓器への転移も確認できました。それぞれの部位にあるがんの大きさや数などから、胃で発生したがんが全身に転移して複数の臓器の働きを妨げ、全身状態が悪化して亡くなったのでしょう。
最初に症状が出た時点で手遅れだったかどうかはわかりません。ただ、飼育下のフンボルトペンギンの胃がんについて根治手術が行われることはまずないですから、いずれは亡くなっていたと思います。 症状を和らげる薬で彼女の苦しみがいくらかでも取りのけていれば……と願うばかりです。 ■飼育上手な日本の水族館・動物園 意外と知られていませんが、日本の水族館や動物園で多くのフンボルトペンギンが飼育されているのは、日本国内の飼育施設が「ペンギンを飼うのがうまい」からでもあります。
日本の飼育施設が持つペンギンの飼育や繁殖のノウハウは世界トップクラスで、ペンギンが非常に長生きするのです。 ペンギンが長生きしているのは、飼育方法の改善で試行錯誤を重ねてきた、日本の水族館や動物園の方々の、長きにわたる努力の結果でもあるのです。そして、それが高齢化に伴うがんの罹患率や死亡率の上昇につながってしまっているのかもしれないのです。 水族館や動物園で飼われているのはペンギンだけではありませんから、多くの動物で飼育技術の向上に伴う高齢化問題が発生しています。