石破政権は「手取りを増やす政策」に飛びついていいのか 慶大・小林慶一郎教授が危惧する「少数与党」が陥る経済政策の“弱点”
岸田文雄前首相から政権を引き継いだ石破茂首相は当初、金融所得課税などを提唱するなど、財政緊縮派と見られていた。ところが、衆院選の大敗を経て、編成された補正予算ではキャスティングボートを握ることになった国民民主党の政策も取り入れ、総額13.9兆円 にも上った。2025年度予算案では政権の命運をかけた与野党の攻防が予想され、さらなる膨張予算が組まれる可能性がある。果たしてそれでいいのか、石破政権による経済政策の是非を小林慶一郎・慶應大学教授が語る。 【写真を見る】213坪の豪邸! 石破首相の大邸宅
膨らんだ予算を縮小するのは難しい
新型コロナウイルスが流行した2020年、生活費を支えるために一人当たり10万円の給付金を配ったことには一定の意味がありました。所得制限するのが理想でしたが、時間的余裕もなかった。その後の3年はGDPギャップ(日本経済の総需要と供給力の乖離)が開き、需要不足、供給過剰の状態だったので、財政出動してそのギャップを穴埋めするのはもっともなことだったと思います。 ところが、コロナ禍が明け、2024年を通してみると、かつてに比べればGDPギャップは埋まりつつある。つまり、今までの規模の景気対策は必要ないと言えるのです。 しかも、いまはインフレで物価が上昇しているのに賃金が上がらず、国民生活が圧迫されています。ここで財政出動を行うと個人の消費が増え、需要が過熱していくことになる。するとさらなるインフレを招きかねず、財政出動によって「手取り」は増えても、それ以上に物価が上がれば、国民生活はもっと苦しくなるかもしれません。また、日本銀行が物価を抑えようと、金利を上げていく金融政策とも矛盾する。結果的に13.9兆円もの補正予算の経済効果は薄くなるのではないでしょうか。 ただ、いまの政権は少数与党になり、政治的に弱くなってしまっている。目先の効果を重視した「手取りを増やす」政策に流れやすく、そこは与党も野党も長期的な視点に立って政策論議を行ってほしい。 膨らんだ予算を縮小するのが 難しいことは「パーキンソンの法則」からも分かります。この法則は官僚組織を研究したイギリスの政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソンが提唱した言葉で、人は時間的、金銭的資源をある分だけ使い切ってしまう。予算を含め、組織というものは拡大する方向に流れやすいのです。 さらに、日本の特殊な状況も指摘できます。2016年以降、日銀による異次元緩和政策により、長期金利がゼロ近傍にあったわけで、政府債務は借り換えていくほど、金利が低くなる状態にありました。国は毎年赤字国債を発行して新たな借り入れをしているのに、金利が低く抑えられていたので、政府債務残高の対GDP比率は、高止まりしているものの、ほとんど増えてきませんでした。そのため、国会議員の財政に対しての危機感も薄くなっています。