石破政権は「手取りを増やす政策」に飛びついていいのか 慶大・小林慶一郎教授が危惧する「少数与党」が陥る経済政策の“弱点”
財務省が手頃な批判対象に
政治が不確実であったとしても、将来的にかかる「コスト」を政治家や政府が国民向けに発信することは重要です。 かつてそういう役割を担っていた財務省がいま“ザイム真理教”などと呼ばれ、手ごろな批判対象となり、風当たりが強い。いまは財務省がいくら反論をしても、なかなか国民には理解されないでしょう。 今後は財務省に代わって中立的な組織がそうした情報を発信していくことが望ましい。既存の省庁が難しいのであれば、政府から独立した財政予測機関を作って、そこが30年先、50年先の日本の財政の先行きについて、国民や政治家に示していくのは意味があることではないでしょうか。 そうした組織を作るのにヒントになるのが「フューチャー・デザイン」という考え方です。政策を論じる立場の人が「未来人」になりきり、将来世代の利益を考えて議論するというもの。岩手県矢巾町では、町内インフラ整備においてこの考え方を取り入れ、水道料金の値上げに踏み切りました。今後、数十年の町政を考えると、いまの料金は低すぎる、という意思決定ができた。国の財政も40年先、50年先までを見通せば、いまの財政を慎重に運用しないといけない、という風に考えが変わるはずです。先に触れた財政予測機関は将来世代の立場に立った長期の視点を与えうる。 2025年、石破政権は何に 取り組むべきか。財政予測機関を創設しようという議論になればいいですが、そうでなくとも、来る2025年度本予算を組んだ結果、数十年先までの長期の財政にどう影響するのか、をきちんと国民に示していくことです。それはこれから生まれてくる「未来の国民」に責任を持つことでもあるのです。 小林 慶一郎 慶應義塾大学教授 1966年生まれ、東京大学大学院工学系研究科修了後, 通商産業省(現経済産業省)入省。一橋大学経済研究所を経て、2013年から現職。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、経済産業研究所ファカルティフェローなどを兼任。著書に『日本経済の罠』(共著、日本経済新聞出版)、『時間の経済学』(ミネルヴァ書房)『相対化する知性』(共著、日本評論社)『日本の経済政策-「失われた30年」をいかに克服するか』(中央公論新社)など。 デイリー新潮編集部
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