石破政権は「手取りを増やす政策」に飛びついていいのか 慶大・小林慶一郎教授が危惧する「少数与党」が陥る経済政策の“弱点”
財政の問題は「世代間のライフボートジレンマ」
今後、日銀が利上げしていくことで、短期金利が1%程度まで上がることは容易に考えられます。すると、長期金利も1~2%まで上がる可能性がある。その状況で財政出動をし続けると、政府の債務はこれまでよりも加速度的に増えていくことになります。これまでのような“財政出動をしても大丈夫だ”という国会議員や国民の感覚は徐々に修正されていくのではないかと思います。 昨今、来年のプライマリーバランス(PB)が黒字化されると報じられています。それに応じて財政出動をして構わないのだ、という意見があるかもしれません。しかし、国民民主党が主張している基礎控除等引き上げは事実上、恒久的な減税措置です。インフレによる税収の上振れは一時的なものですから、恒久的な措置と一時的な増収を並べて論じるのは、リスキーな議論だと言えます。そもそも、目的はPBが将来にわたって安定的に黒字化していくことです。そこに実質的な減税を行えば、来年黒字になっても再来年は赤字になるという事態になる可能性もあります。当然、それは日本の財政にはネガティブな効果をもたらします。 いまの「手取りを増やす」という国民民主党の政策的アピールは、短期的な利益に国民の注意を集中させようとしているだけのように見えます。それは政治家の姿勢として適切なのでしょうか。 財政の問題は「世代間のライフボートジレンマ」だということに本質があります。数人が乗っている救命ボートが転覆しかかっている中で、一人が海に飛び込めば、そのボートは助かるが、全員がボートにしがみつけば、ボートごと転覆する。財政も同じです。現役世代が自己犠牲の精神でコストを払って財政を再建すれば、将来世代は恩恵を受けられるが、現役世代は何も利益を得ることができない。現役世代の利他性、自己犠牲精神が薄ければ、将来世代が財政膨張のコストを支払うことになります。 いまの政治は「不確実」になっています。この先、石破政権はどうなるかわからない、自民党がどうなるかわからない、与野党の力関係もこの先どうなるかわからない。そうすると、現役世代は将来世代の利益ではなく、直近の利益に飛びつきやすくなる。すると「手取りを増やす」政策が支持を得ることになる。