「夫婦とはこうあるべき」の考えを疑い続ける必要がある。『西園寺さんは家事をしない』『1122』の漫画家が考える“いい夫婦”とは
渡辺「自分と相手との関係性のなかで誠実に求め続けるしかない」
――そのスタイルは、最初からうまくいっていたのでしょうか。 【ひうら】 ずいぶん喧嘩も重ねて、今のかたちに落ち着きました(笑)。『西園寺さんは家事をしない』で描いたことでもありますが、一緒に暮らし始めたころは、家事を半々にしようと頑張っていたんですよ。私も料理はちゃんとつくろうと。でもね……料理できる人ってこだわりが強いんですよ。つくったものにあれこれ言われていやになっちゃって、得意なほうにまかせま~すと退場するまでにいろいろありました(笑)。友達の家に一晩家出する、なんてこともしょっちゅうでした。 【渡辺】 でも、そうやって喧嘩するのが大事だって、以前おっしゃっていましたよね。 【ひうら】 そうですね。ひどい喧嘩を重ねても、夫は私を諦めないでいてくれる。それはありがたいなと思います。 【渡辺】 『1122』を描いてから、「いい夫婦とは?」と質問されることがすごく増えたんですよ。そのたびに、結婚におけるセックスの位置とか、自分なりに一生懸命考えて答えるんですけど、「これだ!」という結論はやっぱり、なかなか見つからない。人それぞれだとしか言いようがないんだけれど、それは答えを見つけることを諦めているわけではなく、決まったかたちがあるものではないから、自分と相手との関係性のなかで誠実に求め続けるしかないんだと思います。ひうらさんと夫さんが、諦めずに模索し続けてきたみたいに。 【ひうら】 個人的な体感としては、きっちり平等にしようと思わなくていいんじゃないかとは思いますね。
渡辺「世間に向けた家族のかたちにしんどいまましがみつづけることに何があるのだろう、と思う」
――いちことおとやも、「そっちが不倫したから私も……」とイーブンを求めたことで、関係が歪みはじめますしね。 【渡辺】 本当にそうですね。平等であることを求めたい気持ちは強くあるけど、家事をふくめ、厳密に等分するのは難しい。大事なのは、現状で負担にどれくらいの差があるのか、あるのだとしたらどうやって折り合いをつけるのか、二人で向き合うことなんじゃないかと思います。それを、相手のことが好きだから頑張る、みたいにエモーショナルなパワーで解決しようとすると、一時的にはどうにかなっても、続かなくなって闘いになってしまう。 【ひうら】 不平等なのだとしたら、その差を埋める努力をすること。努力しても不平等が解消できない状況なのであれば、その現状をお互いに認識して思いやること。それがやっぱり、大事ですよね。そもそも、時期や立場によっても状況は変わるじゃないですか。年末は繁忙期だから家事は一切できなくなるけど、春頃はちょっと余裕があるよ、とか。常に5:5を維持するのはどうしたって無理だから、気持ちの上でも役割のうえでも、互いにバランスがとれるよう調整する。そのありようを考えるのが、エモーショナルではない解決ですよね。 【渡辺】 そこで意地を張ったり、聞く耳をもたなかったり、自分の都合ばかり主張すると、ややこしくなってしまう。「家事をしないかわりに稼いでる!」って言いたくなる気持ちもわかるけど、異なる物差しを持ち出して相手の言い分を払いのけ、話し合いの土壌にも立たない、というのが、いちばん不誠実かなと思います。 【ひうら】 「どうせ言ってもわかんないから」と勝手に諦めてしまうケースも多いですよね。「男の人ってこうだから」みたいに一括りにしてしまうのは、個人的にはあんまりいい気持ちがしない。話し合う前から、相手を属性で決めつけてしまう昭和の価値観は、少しずつアップデートしていかないとな、と。 【渡辺】 自分にそう言い聞かせないとやってられない、というのもあるかもしれませんが、一緒に生きていくなら相手にも変わってもらわなきゃどうにもなりませんよね。 【ひうら】 仮に、向き合った末に関係性が破綻したとしても、世間に向けた家族のかたちにしんどいまましがみつづけることに何があるのだろう、と思います。逃げずに向き合い続けた先に何があるのか……現実の答えは、渡辺さんがおっしゃったように、それぞれの夫婦が見つけていくしかないけれど、その可能性を観てみたいから、私はマンガを描くんだとも思います。