「もしチンパンジーの団体が飛行機に乗ったら?」…進化論的にみた人類の有する能力の”異常さ”
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 長谷川圭 高知大学卒業。ドイツ・イエナ大学修士課程修了(ドイツ語・英語の文法理論を専攻)。同大学講師を経て、翻訳家および日本語教師として独立。訳書に『10%起業』『邪悪に堕ちたGAFA』(以上、日経BP)、『GEのリーダーシップ』(光文社)、『ポール・ゲティの大富豪になる方法』(パンローリング)、『ラディカル・プロダクト・シンキング』(翔泳社)などがある。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第12回 『「殺害も、性的暴行も、窃盗も、“進化の一部”といえる」…「ダーウィンの進化論」が残虐さや卑猥さに満ち溢れていても“哲学者”に絶賛されるワケ』より続く
過去数千年での人類の発展
過去数千年のあいだには、たくさんのことが起こった。 哲学者・神経学者のジョシュア・グリーンは、高度な文明を誇る異星人が1万年ごとに地球へやって来て、この惑星に有望な生物が誕生しているかどうかを確認していると想定してみた。 この場合、異星人は10万年前にホモ・サピエンスについて次のように書いたに違いない。「狩りと採集、いくつかの原始的な道具、人口1000万」。それとまったく同じことを、9万年前にも、8万年前にも、1万年前にも書いたはずだ。 だが、前回の2020年の訪問で、メモはきっと次のように変わっていただろう。「グローバル化した産業経済、先端技術、原子力、遠隔通信、人工知能、宇宙飛行、大規模な社会・政治制度、民主政府、高度な科学(……)」。人類は大きく前進した。そして、この発展を促す原動力となったのが、道徳能力だった。 今のように発展するのは必然ではなかった。別のシナリオの数々が容易に想像できる。
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