トランプ再選がもたらす「残酷な結末」 ~米大統領選後の「金融市場」の展望【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
2. 株式市場の今後
■今回の選挙結果を受けて、(1)イベント通過による不透明感の後退、(2)法人税減税への期待、そして、(3)2016年のトランプラリー再現への思惑などから、米国の株式市場は短期的には強含みで推移することが想定されます。 〈短期は強含みも、その後は油断できない展開か〉 ■とはいえ、トランプ氏の当選後に長期金利の上昇が続くようなら、そのネガティブな影響には注意が必要でしょう。なぜならば、米国株式市場の大黒柱である大手ハイテク株は、長期金利の上昇により大きな下押し圧力を受ける可能性が高いからです。 ■長期金利の上昇は2016年のトランプラリーの際にも見られた現象ですが、今回の金利上昇が気がかりなのは、足元のインフレが高水準で、長期金利も2016年と比べて格段に高いからです。また、ハイテク株が多いナスダック総合指数の予想株価収益率(PER)は2016年11月が約23倍である一方、足元では約35倍となっています(図表3)。金利上昇は株主が企業に求める期待リターンを押し上げ、PERの逆数である益利回りの上昇を通じて、株価には下押し圧力をかけることになります(例:益利回り5%ならPERは20倍、益利回りが10%に上昇するとPERは10倍に低下)。 ■こうした長期金利の上昇による株式市場の調整は、2022年にも起きています。同年は、コロナ禍後のインフレの急伸と、それを受けた急激な金融引き締めにより長期金利が急騰し、株式市場は1年を通して軟調な展開に終始しました(図表4)。今後、一段の金利上昇が進むなら、現在でもやや過熱感が見られるハイテク株のPERは維持が困難となり、株式市場全体にも下押し圧力がかかる可能性がありそうです。 〈長期金利の上昇が辛い、米銀のバランスシート〉 ■また、10月以降、「トランプトレード」として規制緩和の恩恵を受けることが期待される「銀行株」を物色する動きが見られましたが、ハイテク株と同様に長期金利の影響には注意が必要でしょう。というのも、米国の銀行セクターは長期金利の上昇により投資有価証券に大きな含み損を抱えるからです。 ■米連邦預金保険公社(FDIC)のデータによれば、米銀が抱える投資有価証券の含み損は、2022年に長期金利が大きく上昇する過程で急膨張し、2024年6月末時点でも約5,129億ドル(約77兆円、1ドル150円換算)に達しています(図表5)。2023年3月に発生した米地銀の連鎖破綻は足元では収まったかに見えますが、長期金利が今後も更に上昇するようならば、含み損の膨張による金融システム不安につながりかねず、注意が必要でしょう。
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