右肩上がりの日系LCC 次の就航先は「待望の世界的大都市」か? 日本人駐在員らから期待の声も
社長が明言「殻を突破する路線」
JAL(日本航空)子会社の国際線LCC(格安航空会社)、ZIPAIR Tokyo(以下ZIPAIR)が2024年10月10日、成田~ヒューストン線を25年3月4日に就航すると発表しました。この席で、同社の西田真吾社長は「この路線はZIPAIRにとって大きな転換点です」と強調しました。 【覚えている?】今とは違う! これが運航開始当初のZIPAIRの塗装です(写真) これまでのZIPAIRの路線は、いずれも成田を出発してから24時間以内に戻れる距離です。対してヒューストン線は成田に戻るまで約28時間を要し、24時間の「殻を突破する路線」(西田社長)になります。連日の出発日があり、航空機の往復と現地での駐機時間を含めて24時間を超える場合は1日に最低でも2機が必要とされており、成否はZIPAIRの今後の路線展開を占う試金石となりそうです。 西田社長は、ヒューストン線が軌道に乗った場合、就航先の候補として「アメリカ東海岸路線も視野に入ってくる」と強調しました。 ZIPAIRは燃費性能が優れたボーイングの中型機787-8型(客席290席)を使用。JALがボーイング787で成田~ボストン・ローガン空港線を飛ばしているように東海岸へ直行できます。 ただし、ZIPAIRが十分なビジネスチャンスを見込める東海岸の選択肢は限られています。製薬やバイオテクノロジーの企業が集まり大学も多いボストンは、日本と往来する一定の需要はあるものの、「ZIPAIRも加わればJALグループ内でお客さんの取り合いになりかねない」(関係者)ため可能性は低そうです。 他方でワシントン首都圏のダレス空港には、ANA(全日本空輸)と提携相手のユナイテッド航空がそれぞれ1日1往復しています。航空関係者は「利用者は政府や政界の関係者が中心で、レジャー客は限られているためLCCには向かない」と断言します。
高いポテンシャル持つ米本土東海岸
JALはバブル直後の1991年3月から成田~ワシントン線をジャンボ機(ボーイング747)で運航し、俳優のリチャード・ギアさんを起用して「サクセス・ギア。JAL」と銘打った広告を大々的に展開しました。しかし、搭乗率の低迷が続いて成功(サクセス)をつかむことができず、廃止に追い込まれました。 それでは日本での知名度が高く、日本と往来する安定した需要が見込める高いポテンシャルがある東海岸の都市はどこでしょうか。航空関係者が口をそろえ、西田社長も意欲を隠さないのがニューヨークです。 外務省によると、2023年10月1日時点のニューヨーク都市圏の在留邦人は3万7414人(推計)とのこと。この数は、海外都市別の在留邦人数ではロサンゼルス都市圏、タイの首都バンコクに次ぐ3位です。ZIPAIRはロサンゼルス、バンコクにはすでに運航中です。 ニューヨークは日本人駐在員も多く、以前ニューヨーク支局に勤務していた筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)も、彼の地にいる友人や知人などから「ZIPAIRが割安な運賃で就航してくれれば一時帰国などに利用したい」との待望論を聞いています。 ニューヨークには世界の代表的な金融街のウォール街があり、自由の女神といった知名度が高い観光名所も豊富です。このため、航空便はビジネスとレジャーの両方の需要を獲得できる利点があります。