「うつ病、発達障がいを抱えたフランチャイズ希望者を5年間断り続けた」全国60拠点に広がる久遠チョコレートのその後
──「久遠チョコレート」は、障がいを持つ人や家族にとって希望の星ですね。 夏目さん:ぼくは飽き性で、いたって平凡な人間です。それでもパン屋開店から20年間、事業を続けてこられた原動力はなんだろう、と最近よく考えるんです。 障がい者の働き方にしろ、少子化にしろ、いろいろな社会課題があって、それがまずいことだとみんながわかっているのに、ほとんどの人が本気でやらない。自分の両手が届く範囲のことを本気でやることで社会は変えられるのに、ダイバーシティとかインクルージョンとか多様性とか、新しい言葉を作ることでやった気になってしまっている。
誰かを批判するつもりはないですが、この社会に漫然と漂う、いわば「本気のスイッチを押さなさ感」にはイライラしている。その「どこへボールを投げたらいいのかわからないイライラ感」が、やめずに続けてきたいちばんの原動力なんじゃないかと思っています。 今度新しい店を出す上越市では、それぞれの家が軒下に「雁木(がんぎ)」というひさしを作るんです。家ごとに、高さも色も素材もバラバラ。でも、その雁木が連なっていることで、雪の日も濡れずにその下を歩ける。雪の深い土地に自然にできあがった風習なんでしょうね。ぼくが目指しているのはまさにこの雁木みたいな社会です。自分のできる範囲で、誰かのために行動することで、結果的に自分自身も住みやすい社会を作ることができる。見た目はでこぼこで不揃いなんですが、雁木のある景観をぼくはすごく美しいと思います。
PROFILE 夏目浩次さん なつめ・ひろつぐ。「久遠チョコレート」代表。「第2回ジャパンSDGsアワード」で内閣官房長官賞を受賞。著書に『温めれば何度だってやり直せる チョコレートが変える「働く」と「稼ぐ」の未来』(講談社)。 取材・文/林優子 写真提供/夏目浩次
林優子