日本初公開のドローイングも登場! アートを開放したキース・ヘリングの軌跡を辿る大回顧展が開催。
もちろん、キースのアートの特徴や魅力を、彼のセクシャリティ/ジェンダーのみに帰するのは単純化に過ぎて間違いである。彼が手がけた1985年のダンス・パフォーマンス『スウィート・サタデー・ナイト』のためのシンプルなモノクロームの舞台セットは、300年にわたるブラック・ダンスカルチャーを祝福するステージであり、彼が自らのジェンダー/セクシャリティを超えた表現を欲したことがみて取れる。加えて、抽象的な多様性のスローガンではなく、親友でありライバルであったバスキアとの出会いや友情関係も含んだ、マイノリティの連帯に対するメッセージを読みとることもできるだろう。 後半の第4章『Art Activism : アート・アクティビズム』、第5章『Art is for Everybody:アートはみんなのために』、第6章『Present to Future : 現在から未来へ』の3つのセクションでは、キースの社会運動との関わりがより鮮明に現れる。既に世界的なギャラリーでの展示やヨーロッパでの大規模な美術展への参加を実現していた彼は、時計ブランドの〈スウォッチ〉やウォッカのブランド〈アブソルート〉といった企業とコラボレーションをしたり、ギャラリーや美術館といった空間から遠く離れ、ポスターのデザインや壁画・彫刻の制作、またワークショップやポップショップの開催などを通して、ストリートにてダイレクトにメッセージを人々に届けていく。後半の章では、それらの活動の中で制作された多くの作品が展示されている。
彼が関わった社会のアウェアネスを高めるテーマは、LGBTQにHIV・エイズ予防、当時まだ続いていた南アフリカの人種隔離政策「アパルトヘイト」への反対、それに識字率向上などを含み、反・核/軍拡キャンペーンのポスターは無料で2万部をストリートのデモの群集にキース自ら配布した。このアートの無料配布というアイデアは、観客である私たちに第1章の「サブウェイ・ドローイング」を振り返させるが、2000年代に花開いたストリート・アートの根本にある考え方でもあり、例えば、2003年にイラク戦争反対デモでプラカードを無料配布したバンクシーへとはっきり受け継がれている。