アメリカ人の心をざわつかせる映画「CIVIL WAR」、大統領選の前にガーランドが浮き彫りにした米社会の根本的な不安
■ 「二人の狙撃手」が映し出す現実世界の不安 主人公のリーとライターのジョエル(ヴァグネル・モウラ)に二人のメンターだったサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)、そしてリーに憧れる戦争写真家志望の若いジェシー(ケイリー・スペイニー)を加えた一行は、大統領のインタビューを取るため、Western Forcesによって包囲されているワシントンに向かうのだが、ある農場を通る際に死角からの銃撃に遭う。一行の乗るバンにはPRESSと書かれているにもかかわらず、だ。 身の危険を感じて車から下りると、そこには迷彩服を着て地面に寝そべりながら狙撃態勢になっている二人の男がいる。二人は、おそらく農場の経営者が住んでいたと思われる屋敷に向けてライフルを構えているのだが、自分たちを見境なく狙撃してくる相手は誰なのかと尋ねるジョエルに対して「誰かが自分たちを殺そうとしているので、彼らを殺そうとしている」と答える。 その答えに戸惑うジョエルを気にする素振りも一切なく、二人の狙撃手は狙撃に集中している。そこで挿入される一輪の花を見るリーのカットは、その場でなにもできないジャーナリスト一行の心情を描いているかのようだった。 「誰かが自分たちを殺そうとしているので、彼らを殺そうとしている」世界では、ジャーナリストが必要とする「誰が」「なぜ」「どのように」は通用しない。自分たちを守るためには大義名分を捨て、友と敵を分かつ線が無数に引かれた世界を生きることを強いられるだけだ。 ガーランドは「エクス・マキナ」や「MEN」でも顔の区別のない世界の不安を描いており、この「CIVIL WAR」でも過去から同じテーマを敷衍して、私たちの中にある不安を見事に炙りだしている。 前述の通り、本作は予告編公開の当初から大きな話題を呼んだが、不安を煽るタイトルに加えて話題の中心にあったのは、ジョエルが嘆願するように発する「私たちは皆、アメリカ人じゃないか!」というセリフに返される、「お前はどの種類のアメリカ人なの? (What kind of American are you? )」というセリフだった。