「天狗になったら成長は止まる」卓球・張本兄妹の父が語る“ずっと伸びる子”の育て方
自分を過信し伸び悩む選手をたくさん見てきた
もうひとつ、宇氏が大切にしていることがある。どんな成功を収めても、天狗になることなく、ひたむきに真摯に努力するという姿勢だ。 智和も美和も、近年の活躍は、親としても指導者としても誇らしい限りのはず。それでも宇氏は、「すごいね、よく頑張ったね」と言った後、必ず、「さあ、またゼロからのスタートだ。頑張ろう」と声をかけるという。それは、長年卓球業界に身を置いてきた宇氏が、努力することを辞めてしまえば、そこで成長が止まってしまうことを、身に染みて知っているからに他ならない。 「大きな大会で何回も優勝すれば、自信がつきます。それ自体は選手にとってプラスだと思いますが、天狗になってしまうのは良くありません。自分の力を過信し、その後伸び悩んでしまう選手を私はこれまでにたくさん目にしてきました。智和や美和には、そうなってほしくないのです」 小学生の頃から天才少年として脚光を浴びてきた智和と、兄の威光もあって早くから注目されてきた美和。世間からどんなにもてはやされても、ふたりが奢ることなく、まっすぐに卓球に取り組んできた裏には、こうした宇氏の教えがあったのだろう。 「智和も美和も、ものすごく負けず嫌い。子供の時から負ければものすごく悔しがり、『何が悪かったのか』、『どうすればもっと強くなれるのか』を研究し、一生懸命練習に取り組んできました。負けず嫌いであることも、トップアスリートになるには必要な素質。そればかりは、親が教えられるものではありません。ふたりにその素質が備わっていたのは、幸運だったと思います」 現在21歳の智和と16歳の美和。まだまだ成長過程にあるふたりが、これからどんな活躍を見せてくれるのか。宇氏は、妻・凌さんと共に、子供たちとほどよい距離感をとりながら見守り続ける。 張本宇/Yu Harimoto 中国・四川省のプロ卓球選手として活躍後、1993年に来日。その後、カタールやイタリアでプレーし、1998年からは仙台ジュニアクラブのコーチとして活動。元プロ卓球選手でマレーシア代表監督経験もある凌と結婚し、2003年に長男・智和、2008年に長女・美和が誕生。兄妹ともに日本代表選手として育て上げる。現在は張本仙台ジュニアクラブを運営し、女子ジュニアナショナルチームのコーチも務める。
TEXT=村上早苗