「金大中大統領の誕生を祝福します」そう言い残して死刑囚は刑場に消えた 死刑賛成の世論が7割の韓国で、死刑廃止は実現するのか【韓国の死刑・後編】
その年の1月から同刑務所のカトリックの教誨師となっていた孟さんは、2人の死刑囚を担当した。そのうちの1人は20歳代の青年で、目が悪かったが熱心に聖書を読み、自らが犯した殺人の罪を深く悔いていたという。 孟さんが死刑を執行する報せを受けたのは、前日の12月29日のこと。刑務所から「死刑執行があるので明日朝に来てほしい」とだけ言われ、パニック状態になったという。「死刑に立ち会った経験のあるソウルの教誨師に電話で相談をし、執行を準備する音を聞かせないように、死刑囚と大きな声で賛美歌を歌うように言われた」と話す。 刑場で会った死刑囚の青年は、落ち着いた様子で「神と家族に感謝したい」と述べ、被害者への謝罪を口にした。さらに、最期の言葉を聞かれると「金大中氏の大統領当選を心から祝う。いい大統領になることを祈る」と答えたという。 「握手をして抱きしめ、君はこれから神様のところに行くのだ、とてもよく準備をしたと話をした。刑務官は立ち会わず、2人だけで話をしたが、もう死の準備ができている様子だった。執行後に棺を開けて顔を見たが、穏やかな表情だった」
そう話す孟さんだが、もう1人の執行時に起きたトラブルに話しが及ぶと、表情がより暗くなった。「この時は(同刑務所で)6人が執行されたが、彼が最初だった。落ち着いて絞首台に立ったが、トラブルで踏板が開かず、執行までに時間がかかった。どれほどの恐怖と苦しみだったかと思うと胸が痛む」 執行に関わった刑務官の中には、気持ちを落ち着かせるために酒を飲んでいた者もおり、執行後はトラウマ(心的外傷)を抱えるケースもあったという。 孟さんは言葉に力を込めて、こう話した。「死刑の実態を知らないまま、再開の声が上がっている。凶悪犯罪の恐怖を鎮めるために死刑を用いても、根本的には解決にならない。社会の重荷を安易に払拭するため、国家が命を奪うことは間違っている」