「金大中大統領の誕生を祝福します」そう言い残して死刑囚は刑場に消えた 死刑賛成の世論が7割の韓国で、死刑廃止は実現するのか【韓国の死刑・後編】
また、最大野党「共に民主党」の国会議員で、死刑廃止法案を提出した経験のある李サンミンさんは「野党内にも保守的な考えを持つ人が増えており、死刑廃止を推進する勢力が弱まっている」とし、韓国での死刑廃止は「とても難しい状況だ」と見る。 死刑再開の可能性については「『事実上の死刑廃止国』という立場を覆す判断は容易ではないが、凶悪犯罪に対する社会的警鐘を鳴らすとして、執行に踏み切ることも否定できない」と憂慮を示した。 ▽殺人事件は減少、死刑の抑制効果は不透明 凶悪犯罪の続発を背景にした死刑再開の世論に、疑問を投げかける専門家もいる。 韓国刑事法務政策研究院研究委員の金大根(キム・デグン)さんは「統計では、殺人などの凶悪犯罪は減少傾向にある。死刑によって犯罪が抑制されるという検証結果はどこにもない」と指摘する。韓国警察庁によると、韓国での殺人事件(未遂を除く)は2011年が427件発生していたが、2021年は270件だった。
「国家が社会的制裁を考えるとき、最も簡単に直感へ訴えられるのが死刑。だが、そこにどこまでの効果があるのか、という問題は常に付きまとう」。そう話す金さんは、国際的に見ても死刑廃止が世論によって導き出されるケースは見当たらないとし、人権に関わる問題を世論に委ねるべきではないとも主張する。 金さんは「例えば、女性の参政権を剥奪せよという世論が多数となれば、それを認めていいのか。人間の尊厳にかかわる問題を世論によって判断するのは間違いであり、死刑の問題も当然そこに含まれる」とし、国会が責任をもって議論すべきだと強調した。 ▽「死刑はもう一つの殺人」 死刑執行に立ち会った神父の思い 死刑に関する議論がメディアで報じられる中、再開を求める世論に複雑な思いを抱いている人がいる。 韓国西部・忠清南道(チュンチョンナムド)扶余(プヨ)郡の教会で神父を務める孟世永(メン・セヨン)さんだ。孟さんは韓国でこれまで最後に死刑が執行された1997年12月、大田刑務所で2人の執行に立ち会った。