「金大中大統領の誕生を祝福します」そう言い残して死刑囚は刑場に消えた 死刑賛成の世論が7割の韓国で、死刑廃止は実現するのか【韓国の死刑・後編】
金さんは「泥棒を刑務所に入れても、出てきたらまた泥棒をする。強姦をした犯人も、出所したらまた同じことをする。犯罪の多くは繰り返しによって起きている。これが今の韓国だ」とし、死刑を廃止することによって、凶悪な罪を犯した人が再び社会に戻ることの危険性を指摘している。 「凶悪犯は生まれつきのもので、更生する可能性はゼロに等しい。裁判の時間だけで、判事はどうやって本人が反省しているのかを見極めるのか。反省した犯人を、私はまだ一人も見たことがない。私の周りの弁護士も同じだ。人間は反省する存在ではなく、ただその場に合わせているだけなのだ」 そう語る金さんの言葉は、かなり手厳しい。冤罪の可能性については「重要な課題」としつつも、「そうした可能性が完全に否定されないからといって、死刑の効果までをすべて否定してしまうのはおかしい」と話す。出版後、励ましや賛同の声が届くことはあるが、反対の意見はないという。 ▽国会での死刑廃止法案、7回上程するもすべて廃案に
死刑に賛成する世論が高ければ、政治家の行動にもおのずと影響を与える。韓国の国会ではこれまで7回、死刑廃止法案が上程されたが、いずれも審議未了で廃案となっている。死刑再開の世論が高まる中でも、国会での死刑に関する議論は低調だ。 在職中に2回、死刑廃止法案を上程した元国会議員の柳寅泰(ユ・インテ)さんは「韓国で死刑廃止の世論が盛り上がったことはなく、廃止は国会の判断によるしかないが、議員は票で生きている存在。世論を意識せざるを得なくなる」と話す。法案を取りまとめた段階では、過半数の議員から賛同を得ていたが、実際の審議には消極的になる人が相次ぎ、採決に至ることもできなかったという。 朴正煕(パク・チョンヒ)政権下で民主化運動に参加し、死刑判決を受けた経験を持つ柳さんは「韓国が再び死刑を執行する国となるのは、現実的に難しい。それに合わせて制度も見直すべきだ」とし、国会での議論を呼びかけている。