アメリカの9.6兆円軍事援助で勢いづくか、ウクライナ軍が仕掛ける「牛の舌」分断とリベンジ反攻作戦の“勝ち目”
■ 日本の防衛予算を上回るアメリカの軍事支援が再開 2024年4 月20日、アメリカ議会下院で半年以上“棚ざらし”状態だった、総額610億ドル(約9.6兆円)にも達するウクライナ軍事支援の緊急予算案が可決。アメリカが誇る世界最強の「武器・弾薬サプライチェーン」が再び動き始めた。2025年半ばまでの援助額は、日本の2024年度防衛予算の約7.9兆円と比べても、その巨額さは一目瞭然だ。 【写真】早ければ2024年6月にウクライナに引き渡される F-16戦闘機 この朗報にゼレンスキー・ウクライナ大統領は、「アメリカが支援する限り、民主主義と自由は敗北しない。ありがとう、アメリカ!」と、SNS上で歓喜した。 弾切れ寸前のウクライナ軍は、まさに首の皮1枚でつながった格好だが、アメリカの動きは素早く、数日後には早速610億ドルのほぼ1割に当たる60億ドル(約9300億円)を使い、「武器・弾薬支援パッケージ」第1弾として現地に送り始めた。 中身について日本のメディアは詳しく紹介していないが、ウクライナ軍の実情を知る上で参考になるため、分かりやすく解説した表を別に掲げた。 欠乏する弾薬がリストアップされ、普通の大砲(榴弾砲)の弾薬はもちろん、対地ミサイルや戦闘機、ドローン(UAS)から国土を守るアイテムが目立つ。これらによるウクライナ軍の前線部隊や発電所・インフラの被害は想像以上に深刻だ。 >>【写真全10枚】アメリカが再開した対ウクライナ軍事支援の中身
■ “ドローン・キラー”として消費急増の機関銃 個別で見ると、まずは長距離ミサイルの「ATACMS(エータクムス)」に注目だろう。ロケット弾を立て続けに発射する、タイヤ式の高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)や、このキャタピラ型のMLRS(多連装ロケットシステム)を使って発射できる精密誘導の長距離地対地ミサイルである。 これまでアメリカのバイデン政権は、ロシア・プーチン政権を刺激しないよう、ウクライナからロシア本土を直接狙える「射程300km」型でなく、飛距離を落とした「射程165km」型の供与にとどめていた。 だが、アメリカ政府は「300km」型をすでに渡していると認め、今年4月にクリミア半島の飛行場攻撃で実際に使用されたと一部メディアも報じている。 「レーザー誘導ロケット・システム」も特筆すべき兵器だ。アメリカは攻撃ヘリが地上攻撃用に使うロケット弾を在庫として多数抱え、これを「ドローン撃墜用」に改造すれば、対空ミサイルよりも激安で揃えられる。ロシアの安価なドローンの撃墜には、費用対効果と供給の両面で極めて有利だ。 簡単なレーザー受信機と、飛翔コースを微妙に調節する小翼からなるキットを、ロケット弾本体に装着。敵のドローンにマーキング用のレーザー銃を使いレーザー光線を照射、発射されたロケット弾はレーザー光線に導かれドローンを撃ち落とす仕掛けである。 「小銃・機関銃などの弾薬」は、歩兵が戦場で大量に消費するだけと思いがちだが、今回の戦争でドローン撃墜には機関銃が費用対効果に優れると再確認されている。特にロシアが多用するイラン製の「シャヘド136」は、長距離飛行できるよう飛行機の形状で、飛行距離を稼ぐため速度は時速200km以下と案外遅い。 このため、肉眼で発見して機関銃でも十分撃墜可能らしく、“ドローン・キラー”として機関銃弾の消費が急増しているという。いずれにせよ、ハイテクならぬローテク兵器が活躍しているのも、この戦争の特徴だ。