ボクシング世界王者 内山高志の強さの秘密
その後、内山はファン・カルロス・サルガドをTKOで下し晴れて世界チャンプとなった。土居さんは「もう内山さんは自分の所に来ないだろうな」と思っていた。だが、意外にも、内山本人が「もっとちゃんとトレーニングをお願いしたい」と言ってきた。土居さんは、実は、持久系だけでなく全身を強化する筋肉トレーニングに手をつけたかった。 「パワーのある相手のパンチに耐えうる、押し負けないという体作りが必要だと思いました。また、パンチ力を含めてボクサーとしての総合力をアップするには、まだまだ筋力が足りないと感じていました」。 だが、内山は、当初、ウエイトトレーニングには否定的だった。「おそらくやらなくても倒せるから必要ないと思っていたんでしょう」 しょうがなく持久系トレだけを続けた。半年くらいが経過して、体力テストを実施すると、持久系の数字が飛び抜けていたが、筋力については、どこも平均的で、それほど目立った数字はなかった。それでもパンチ力が凄いのは、どうしてなのか。 「おそらく拳への1点集中というか、パワーの伝え方が巧いからです」 そういうデータを見せられ、他の選手のトレーニングと結果を見ているうちに、内山の気持ちが変わってきた。「世界のトップクラスとやっても通用する体を作るためにやってみたい」と言い出したのが、ちょうど1年ほど前の話だ。上半身は、パンチ力に直結する肩回り、後背筋をメインに、下半身は細かい筋肉を鍛えた。みるみる、その体が変化していく。両手を上に上げて力こぶを作るポーズをすれば、背筋が、せり出して、まるで羽でも、ついたように見える。胸囲はなんと1メートルである。 「天使の羽」。土居さんらは、そう呼んでいるが、見違えるように肉体は変化した。 「こんなに早くカラダが変わるのは、経験はありませんが、おそらく普段からロードワークを欠かさず、食事、栄養面も、きっちりとやって節制しているからでしょう。そういう継続の努力の成果だと思います」 動きが違ってきた。 V6戦ではフィジカルが強いブライアン・バスケスを撃破。今回の防衛戦も太い腕でジャブとフックをぶつけてくるハイデル・パーラに当たり負けはしなかった。内山も「至近距離のパンチ。特にフック系のパンチ力が間違いなく違ってきている」と実感しているという。